その霊はお菊さんではない。別の霊だ!

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その霊はお菊さんではない。別の霊だ!

猫はアオヤマ(姫路のボス猫)から聞いた内容を武に話し続ける。 「播州皿屋敷の事件は1500年ちょっとだから、今から400年以上前だ。お菊はスパイとして青山家に入ってきたんだけど、青山鉄山の部下に町坪弾四郎(ちょうのつぼ だんしろう)って奴がお菊を気に入って、口説いたらしいんだ」 「へー」 武はイマイチこの話に興味が持てない。 大昔の色恋沙汰や恨みつらみを聞いても、ピンとこないからだ。 武が飽きているのを無視して、猫は話を続ける。 「弾四郎はお菊に振られた。逆恨みした弾四郎は、お菊が青山から管理を任されていた家宝の皿の1枚を隠したんだ。お菊は青山家の家宝をなくした責任を取らされて殺された。そして、お菊の死体は井戸に捨てられた。お菊の死体が井戸に投げ捨てられて以来、その井戸から夜な夜な皿を数える声が聞こえるようになった」 「『い~ちま~い、に~ま~い』だよね?」と武が猫に聞いた。 「そう。それが皿屋敷伝説だ」 「僕が知ってるのは『番町皿屋敷』だけど、姫路の皿屋敷も似てるな」 「まあな。『番町皿屋敷』は姫路の『播州皿屋敷』が基になっている説があるからな」 「それで、何が問題なんだよ?」武は猫に聞いた。 「出るんだよ」と猫は言った。 「へ?何が?」 「お菊さん」 「お菊さん?まだ出るの?」 「今でも毎晩出るらしい」 「まじかー。400年以上?」と武が聞いた。 「ああ、400年以上」 「毎晩?」 「毎晩」と猫は答えた。 「青山家の人、毎晩『い~ちま~い、に~ま~い』を聞かされるのか?」 「ああ。気が狂うよな」猫は同情するように言った。 猫の話では400年以上の間、毎晩お菊さんは皿を数えているらしい。 でも、武はお菊さんが成仏した話を聞いたことがある。 お菊さんは成仏していなかったのだろうか? 武は猫に確認することにした。 「そう言えば、偉い坊さんがお菊さんを成仏させた話を聞いたことがある。お菊さんが『八枚・・九枚・・』と言った後に坊さんが『十枚』と付け足したら成仏したんじゃなかった?」 ※ここで言う偉い坊さんとは、了誉上人(りょうよしょうにん)です。 「ああ、あれな。お菊さんはその夜は出てこなかった。でも、次の日になったら、また『一枚・・二枚・・』と言って出てきたらしい」 「成仏しなかった?」 「ああ。偉い坊さんは成仏したと言って帰ったらしい。でも、次の日になったら『やっぱり1枚足りない・・・』ってお菊さんが出てきた」 「それって、詐欺じゃん」武は呆れたように言った。 「またお菊さんが出てきたから、青山家の人間が偉い坊さんに文句言ったらしいんだ」 「偉い坊さんは何て言ったの?」 「『その霊はお菊さんではない。別の霊だ!』ってよ」 「ふざけんなよー。坊さんのくせにせこいなー」 「そう思うだろ。その坊さん『お菊さんは成仏したから金は返さん。その霊を成仏させてほしかったら同じ金額払え!』って言ったんだよ」 「そいつクソだな」武は見たこともない坊さんに怒りをぶつけた。 「だろ?青山家の奴はキレて坊さんに除霊を頼まなかったらしい。だから、お菊さんはまだ出るんだよ」 「青山家の奴の気持ちは分かるな・・・。でもさ、『十枚』を付け足したら、お菊さんはその日は出てこないんだよね?」 「その日だけ。効果は1日だ。だから青山家は毎晩お菊さんが出てくると、お菊さんが『九枚』と言った後に『十枚』と付け足してるんだ」 「400年以上も?」 「400年以上だな」 武は青山家の苦難の400年を理解した。 そして青山家に生まれなかったことに感謝した。
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