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頭を撫でると、小さく頷いた。黒目がちの目が涙で潤んでことさら大きく見えた。
「熱が下がったら、怖いものは見えなくなるよ。だから頑張ってお薬飲もう。リビングまで抱っこしてあげるから、目をぎゅっとつむって」
ひなたは小柄とはいえ、六歳の子供を抱き上げるのはなかなかの重労働だ。ひなたは、渋々目をつむる。
「行くよ、よいしょ」
私はひなたを抱き上げ、寝室のドアを開けた。
「ひなちゃん、引っ張らないで」
「ーーそんなことしてないよ」
「え?」
娘の両腕はしっかり私の首周りに巻き付いている。パジャマの裾を引っ張るのは不可能だ。
「そうだよね、ごめん、気のせいだわ」
「なにが気のせいなの?」
「今、パジャマが……ううん。なんでもないの」
せっかく薬を飲む気になったひたなを怖がらせてはと、出かかった言葉を飲み込む。首筋に流れた汗は、熱のこもったひなたを抱き抱えているせいだ。
「トイレ行きたい」
「分かった」
部屋を出る瞬間、壁に浮き出た小さな手が、私に向かって手を振ったように見えた。もしかしたら私も、風邪をひいてしまったのかもしれない。なんとなく身体がだるい。
「ママ、なにか言った?」
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