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「ふざけんな、娘になにすんだ!」
自分の発した声に目が覚める。背中にじっとりと嫌な汗が滲んでいた。隣を見ると、ひなたがむにゃむにゃ言いながら寝返りをうった。
「もう、幸せそうな顔ね」
ひなたの頬を撫でようとすると、ひなたの足が私の脛に直撃し、今度こそ夢から覚めたことを知った。
「はあ……」
風邪が悪化して、昨日の夜も早めに寝たのだが、ずっと悪夢ばかり見ている。
「懐かしいものを見たな」
子供の頃、高熱にうなされた時に見たものは、私の布団の上で列をなして歩く蟻だった。私の布団のみならず、隣で寝ている母の顔にもたかっていた。自分にしか見えない蟻にも、自分にしか見えていない事実も恐ろしかった。そのせいで、しばらくどこにでもいる蟻が怖かった。でも、母も幻覚を見て怯える私を見て内心、ゾッとしていたのではないか。そして、それと同時に、我が子を苦しめる病を心底憎んだだろう。それは親になって、初めて分かった。幻覚や悪夢による怖さより、子供の健康が脅かされることの方がずっと恐ろしい。
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