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「ママ、そこの壁に幽霊がいるよ」
夜中に目を覚ましたひなたが白い腕を伸ばして言った。
「……熱が出るとね、怖い夢を見たりするのよ」
夏の疲れが出たのだろう。朝晩は少し気温が下がるが、日中は真夏並みに暑い。
「そうなの?」
かすれ声で呟いたが、納得はしていないようだ。
「お熱、やっぱり高いね」
額と胸のあたりを触ると、じゅっと音がしそうなほど熱かった。どうやら、寝る前に飲ませた解熱剤の効果が切れてしまったらしい。
流行り病では無かったのは不幸中の幸いだが、娘は昨日から高熱が続いていた。
「ひなちゃん、起きれる? お熱を下げる薬を飲もうね」
ひなたの身体を起こそうと腰の下に手をやると、腕にしがみついて来た。
「ひなちゃん」
「……怖いからやだ」
ひなたには壁の幽霊が今も見えているらしい。
「大丈夫だよ、幽霊なんていないよ」
私には当然ながら、いつもとかわらなく見える。
「いるもん」
ひなたは目をぎゅっとつむり、首を振った。
「じゃあ、ここにお薬を持って来ようか。電気をつけたらきっと見えなくなるよ」
「やだ! ママ、ここにいて!」
「そっか、怖かったね」
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