序章

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「こないだウチの女が買ってきた、鹿のぬいぐるみより青いじゃんか。おもろ」  向かいの、腕にびっしりとタトゥーが入った色黒、タックンが白い歯を覗かせる。いつもならいろいろツッコむとこだけど、今はその元気が残っていない。 「とりあえず、水持ってきましょうか?」  タックンの隣の、優秀過ぎるバーテンダー、リョータが軽く腰を浮かす。その光景がまたぐわんぐわん揺れて、衝動的なアレが喉の奥から込み上げた。  慌てて口元を手で抑え、俺は席を立つ。うん、もう無理だ。いったん吐こう。 「ん、便所っすか?」 「ハニー、ついていこっか?」 「歩き方スリラーになってんぞー」  全ての声を片手で力なく制し、あちこちのテーブルの角にぶつかりながら、なんとかトイレに辿り着く。個室に入り便器と顔を合わせた途端、さっきまで飲んでいた白ワインが、口から滝のように流れ出た。 (浄蓮の滝ィ~)  それどころじゃないのに、かの有名な演歌のフレーズが頭の中で再生される。心うらはら。酔っ払い過ぎだ。 「うらんでもォ~うら……おえぇ」  そしてまたマーライオン。情けない。  いつの間にか、酒がずいぶんと弱くなった。多分、昨年結婚したせいだろう。毎日、可愛い嫁と生まれたての息子が家で待ってるから、飲む回数も量もかなり減ったのだ。  しばらくの間ぐったりしてから、そろそろ戻ろうとゆるゆる立ち上がる。相変わらず脳みそはフワフワしているけど、気持ち悪さはなくなった。まあ大丈夫だ。 「俺はやっぱ戦士だろ?」 「いや、タックンさんは遊び人でしょー」 「翔は武闘家か盗賊だな」 「俺は僧侶っすかね」  テーブルに戻ったら、ブドウ糖選手権はとっくに終わっていた。今度はRPGらしい。よくわからないけどとりあえず、「俺はもちろん勇者ね」と口を挟んでみる。
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