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序章
「ブ……ドゥートァー!」
集合したのは正午だったのに、気づけば夕方。窓の外の空はすっかり暮れなずんでいた。そして、俺と共にテーブルを囲んでいる三人の男達の顔も、夕日に負けないほど真っ赤だ。
「いやそれ、明らかドーターって言ってますよね?」
「俺の娘に手を出すな!」
「俺の背後に立つな!」
「どこぞのもみあげスナイパー登場」
「ノーノー! ウタナイデー」
誰が言い出したかわからない「平日の昼間から泥酔しようの会」は、今や月イチの定例会になっている。
開催はいつも某イタリアンチェーン店。ミラノ風なドリアで昼食を済ませたら、マグナムサイズのボトルワインを頼んで、延々飲み続けるのだ。
「はい。次、俺行きまーす。皆様、我らブドウ党に清き一票を!」
「とんだ甘党だぜ」
「俺らの税金、糖分に使う気なの?」
昔はゲームとかもいろいろ持ち込んでいた。けどある日、黒ひげ危機一髪をやっていたら、ポンッと飛んだ黒ひげが隣のテーブルのパスタに着地して、店からしこたま説教されてしまったのだ。
そんなわけで、最近は大人しく談笑するだけに留めている。
「次、俺ねー。トウ・ブドウ」
「なるほど。リョータサクラギ的なやつすね」
「赤コーナー。タクーヤー、シマザーキー!」
「青コーナー。ショー、ミナーセー!」
それにしても、うるさい。
彼らは今、かっこいいブドウ糖の言い方選手権の最中らしい。どういう流れでそんな意味不明な戦いを始めたのかは知らない。俺は全く参加していないし。
「てか千章、ずっと黙って……ってなに、その青瓢箪みたいな顔。大丈夫?」
左隣に座る翔が、不意に俺を覗き込んだ。腹が立つほど整ったその顔が、ゆらゆらと揺れる。
いや、全くもって大丈夫じゃない。もう限界です。
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