いちクラスメイトが見るに

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いちクラスメイトが見るに

「西城さん! 今日こそ僕とデートに!」 「駅前にできた評判のクレープ屋さんに案内したい!」 「いや! 俺と静かな美術館に参りましょう!」 「……西城さんならもういないよ」  教室の中にいる生徒のひとりがそう言うと、入り口に集まってきていた男子諸君は「やっぱりか……」と一様に肩を落とした。そのままとぼとぼと去って行く。恒例行事となりつつある光景に二年一組の生徒は顔を見合わせた。    彼らの目的は一組に在籍する学園のマドンナ・西城あかりさんだ。すれ違った人が振り返るような美貌と困った人には誰であったとしても手を差し伸べる姿に心を奪われる人が続出。そんな彼女にデートを申し込む男子は数知れず。入学してから長い間、彼女もやんわりふんわり断っていたのだが、一年半も耐えていれば限界だったのだろう。二年生の二学期が始まった日、彼女は夏休みが明けても懲りずに突撃してくる彼らに対して一つ宣言した。 『放課後にお誘いされた場合のみ、デートをお受けします。それ以外の時間にお誘いを目的として話しかけるのはやめてください』  これほどはっきりと宣言したにも関わらず、彼女を高慢だとかとうぬぼれだとか、そんな風に評する人は少なかった。それほどまでに彼女は魅力的で、デートをしたい男子はそれに従うほかなかったし、女子たちも誰にでも優しい西城さんに対して好意的だった。それにあまりに言い寄られて心をすり減らしているのを知っていたので、「それくらいはっきり言うべきだよ! 私たちも守るからさ!」とバックアップ体制も完ぺきだった。  さて、意外だったのはここからだ。彼女が宣言した日、みんなデートを申し込むための準備は各自万全だった。同じクラスの男子は教室の後ろの席で帰るための準備をする彼女に目を光らせる。他のクラスの子も、放課後のチャイムが鳴ればすぐに彼女を迎えに行けるよう、教室と廊下の境目にクラウチングスタートで待機していた。クラスの女子は西城さんが無事に帰宅できるよう、それらの存在を警戒していた。  そうして時は流れ、ついに運命のチャイムが鳴る。  一番近い二組の生徒が廊下を走り、一組の扉を勢いよく開けた。同じクラス以外なら間違いなく一番目の挑戦者だ。しかし、そんな彼が見たのは、混乱に陥る一組の生徒たちだった。肝心の西城さんは見当たらない。 「どうしたんだ?」  彼が一組のひとりにそう尋ねれば、信じられないといった様子で口を開いた。 「さ、西城さんが……」 「彼女がどうしたんだ?」 「西城さんが消えちゃった!」 「な、なんだって?!」  話はこうだ。チャイムが鳴り、西城さんが席を立ったと思った瞬間、姿が光に包まれて消えてしまったのだという。彼女から目をそらすまいとしていた男子が言うのだから間違いない。その光は一瞬の出来事だったが、それが収まった後、そこにいた西城さんの姿はどこにもなかったのだ。  彼の後ろから続々とやってきた挑戦者たちが、その異常事態を知るたび「なんだって?」と声が上がる。クラスメイトもそれ以外も、どうしてかはわからない。しかし彼女がこの場にいないことだけが事実だった。  ざわめきが終わったのは、やってきた先生が「西城が消えたァ? 馬鹿いうな、帰っただけだろ。みんなも帰った帰った!」と集まった生徒をちりぢりにしたせいだった。    翌日、彼女はいたっていつもどおりに登校してきた。クラスメイトがひとり、代表して彼女に尋ねる。 「西城さん、昨日は……ちゃんと帰れた?」 「うん、みんなのおかげ。ありがとう」 「そう……?」  どう尋ねても、西城さんの消失に関して答えを得ることはできなかった。彼女はごく普通に帰宅しているつもりらしい。からくりはわからない。しかし無事であるのだからいいかと、友人たちは謎の解明をあきらめた。一組女子による厳重警戒も徐々に緩和されていく。  そのため、今日も学園で西城さんにデートを申し込めたものはいない。連日申込者が殺到しても、彼女はすでに教室にいないからだ。
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