運動会の日に

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 Eさんは小学1年生の息子が出る運動会に保護者として参加した。夫は仕事を抜けられないということで、母親単身での参加となった。  空には雲が目立ったものの雨が降ってくることもなく、それほど暑くない日だ。  とりあえず息子も出るという学年全体のダンスのプログラムだけは見ておこうと考え、その時間帯に着いた。  校舎の前の運動場で、子どもたちが集まってダンスを披露しているのが見える。 「こんにちは、Eさん」  立ち見の観覧席に辿り着いた彼女に話しかけてくる男性がいた。 「あら、T村さん。ご無沙汰してます」  保護者会で一度話したことがあるT村さんだった。彼の息子もEさんの子どもと同じクラスなのである。 「私、運動会見に来るの初めてなんですよ。少子化って言われてますけれど、結構子どもの数多いんですね」  Eさんは率直な感想を口にした。 「そうですね、僕は実はこの学校のOBなんですが、僕らの世代よりもむしろクラスの数が増えてますよ。なぜかと言うと、8年前に他の小学校と合併したからですね」 「OBだったんですね。私は結婚してからこちらに移ってきたもので、知りませんでした」 「僕も子どもがここに入学したのがきっかけで、今日は久々に来ましたよ。他との合併の時に校舎も立て替えするのかと思ったのですが結局は……あっ、ダンス始まりますよ」  見ると音楽と共に1年生の子どもたちがズラズラと行進して各自の指定場所に並んでいくところだった。そして曲が変わり、ぎこちない動きでそれぞれが踊り始める。  T村さんとの会話をそこそこに終え、Eさんは自分の息子の姿を探し出す。 「あっ、あそこにいた」  息子の姿を見つけて、そのダンスにハラハラしながら見ていたEさんだ。  ただ、彼女はしばらくしてその上の方に視線を移した。  校舎の3階の窓のあたりで何かが動いたような気がしたのである。  3階にあるのは5年生と6年生の教室。その一つの窓ガラスの向こうに、クリーム色のトレーナーを着た子どもらしき姿があった。  髪の毛が短く、男子児童と思われた。窓のところに立って運動場の方を見つめているようだ。 「全校児童が運動会に出ているはずだけど、病気か何かかな」  運動会中であり児童はほぼ全員が体操服のはずである上に、一人教室に残っても授業が行われているはずもない。  病気か何かならば保健室に行っているべきではないだろうか。  Eさんは一瞬でそのようなことに思いを巡らせた。
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