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「えっ、なんで!?」
村上すら乾いた笑みを見せる様子に、陽葵は焦る。
「──いや、バチくそかわいいと思っただけ」
いつの間にこんな風に素直に感情を表すようになったのか、最初に会った頃とは大違いだ。
「もう、そうやって意味もなくかわいい、かわいいって」
それでも褒められれば嬉しい、そんな他愛のない言葉でも自信につながるものだ。尚登は無条件に愛を示してくれる、それが嬉しかった。
そして尚登は守られていればいいとも言ってくれた、現にたくさんのことから救ってくれた。
しかしそれだけでは駄目なのだ、与えられるだけではなく、自分も与えたい。その強さを身につけよう。
「よぉし、がんばろ! ジェニーさん、次は何をしますか!?」
意気揚々と膝を叩く、事実体を動かせば心も健康になるような気がしてもっとやりたくなるものだ。尚登やジェニーほどにはなれなくても少しは強さを身に着けよう、田辺につけ入れられたのも自分の弱さからではないのか。
迷惑はかけたくない、尚登のそばにいるために。
☆
ジムからは電車で帰宅する、幸い空いていた、横並びに座ることができた。
「つかよ。ジェニーと和気あいあいとやってたけど、気にならねえのかよ」
ずっと思っていた疑念をようやく口にできた。その真意を陽葵は問い質さなくても理解できる。
「全然気にならないよ。ジェニーさん、気さくでいい人だよ。気にしてるのは尚登くんだけじゃない?」
ちょっと意地悪で言えば、図星だったように尚登は視線を泳がせる。もっとも尚登も振られた状態だが音信不通になったことで見限ったのは尚登の方だ、本当になんの未練はなかった。
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