白い壁の傷

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第3章     僕はあの写真が撮られた4月9日に三春へ向かった。それは三春駅の改札を通った時だった。目の前に「梅、桃、桜」と大きく書かれた額が掛かっていた。僕はそれが気になって、そこにいた駅員に尋ねてみた。 「この町は梅と桃と桜の花が一度に咲くんです。それで三つの春が同時に来るから三春と呼ばれるようになったんです」 「それは毎年起こることなんですか?」 「いいえ、13年に一度です。そしてそれは今年なんです」  僕は駅前で客待ちをしていたタクシーに乗り込むと、早速写真にあった滝桜へ向かった。それは広大な土地にたった1本だけ立っていた。しかし絡み合う枝はたくましく、青々とした葉は溢れんばかりに瑞々しくて、そこに淡い桃色の花が無数に咲き誇っていた。それでその巨木に一瞬で心を奪われた。するとその真下にいた女性に目が留まった。それはあの写真に父と並んで写っていた人だった。僕がその人に見とれていると2人は目が合った。僕は誘われるように彼女の正面に歩み寄った。
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