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「そういえばお前、結婚するんだって?」
偶然、そんな会話を聞いたのは、八重樫さんが異動する3日前の出来事だった。
「あぁ、向こうに移り住むのと合わせて籍入れることにしたんだ」
少し、照れたように笑った彼の目尻を見た瞬間、泣きたくなる気持ちを必死に堪えた。
こうなることは、分かっていたはずなのに。
何かを期待していた訳ではないのに。それなのに……。
心臓が、爪を立てて思い切り切り裂かれたような気分だった。
喉から手が出るほど、私が欲しくて欲しくて堪らない幸せを掴んでいる女性が、この世のどこかにいる。
そしてそれは、間違いなく私ではない。私には、どう足掻いても掴めない。
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