極道の推し活、始めました【完】

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「この部屋を出て、そのまま真っ直ぐ庭を走って裏口の扉から逃げろ。」 「……に、庭ってあの日本庭園?!あんな砂利の上を裸足で歩いたら足が血まみれにっ、」 「我慢しろ、死ぬよりマシだ」 「っていうか、私の履いてたヒールはっ…」 「──時間が無い、さっさと走れっ…ガキ」 半ば強制的に私を立ち上がらせた仁睦さんは、急かすように後ろから軽くお尻のあたりを蹴ってくる。とても扱いが雑だとは思うが、どちらかというと私はM気質な人間だと思うので悪い気はしない。 神隠しにあった少女のように…息を殺して屋敷中を走り回り、裸足で日本庭園を駆け抜けて裏口の扉に手をかけた時…後ろを振り返ろうと思ったが、そこまでの勇気はなくて…そのまま扉を開いて外に出た。 外に出てまず視界に入ってきたのは…道路を挟んで向かい側に見える見慣れた可愛らしい某建築会社の可愛らしい外観のアパート─… ──…マイ・スイートホーム こんな近い距離に住んでいたのに、道を挟んだ向こう側には別世界が広がっているなんて。夢にも思わなかった。…本当に、神隠しにでもあっていたのだろうか? 外側からは開けられなくっているのか、私が出てきた裏口の扉には…ドアノブは存在しなかった。 なんだか、長い夢を見ていたような気がするが…帰宅して玄関に座り込んだ時、バサッと肩に掛けられていたスーツのジャケットが床に落ちたのを見て…あの出来事が夢でも幻でもなく現実だったのだと、ジワジワと感じた。
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