極道の推し活、始めました【完】

25/216
前へ
/216ページ
次へ
******* 小学2年の夏休み、両親と兄が事故死した。 あれは事故だったと私は今も思っているし─…その時の状況は誰よりも詳しく語れる自信がある。なぜなら自分も同じ車に乗っていたから。 『一人だけ生き残って、かわいそう…』 近くに住んでいた祖父母宅で暮らすようになったので学校は変わらず同じ所へ通った。”かわいそう”だと哀れな目を向けられることにはいくつか理由があった。 事故だと思っている私とは違い、大人たちは口を揃えて”一家心中”なんて難しい四字熟語を使った。 その言葉の意味が理解出来るようになったのは中学生の頃…国語の教科書にそれ系統の小説が載っていたのがきっかけ。それまではその言葉の意味すら分からずに生きていた。 あの日は、夏休みで…家族旅行中だった。昼食を食べたあと父の運転する車で山道を下っていたときにそれは突然起きた。 物凄い爆音が鼓膜を揺らした直後、身体が宙に浮いた。何が起こったのか分からない私とは違い…隣に座っていた兄はとても冷静だった。 『ひらりっ…』 ギュッと抱きしめるようにして、私の身体を守ってくれた兄のお陰で…車外に投げ出されることはなく車と共に崖を下った。 真っ逆さまに落ちてから何回転かしてようやく止まった車内で、全身が痛む中…そばにある兄の身体を揺すった。 『…にぃに、』 微かに動いた兄の手が、そっと私の頭を撫でてくれたのを今でもよく覚えている。 『…ひらりっ、ごめんな』 弱々しい声でそう言った兄は、ゆっくりと身体を起こし…すっかりドアの役目を果たしていないボロボロの鉄の壁と化した扉を手で押し開けるとそのまま私の身体を車の外へ突き飛ばした
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加