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そこでようやく気がついた。車の前方から火が上がっている。運転席と助手席に座っていたはずの両親の姿はもはや見えない。
──…事故にあった、死んでしまう
小学生の自分に分かることなんて、せいぜいそのくらいで。怖くて身体が動かなかった。それでも後部座席でまだ息をしている兄のことを助けようと子どもながらに必死で叫んだ。
『─…にぃにっ、早く出てきてっ!!!』
泣きながら叫ぶ私に優しく笑いかけるだけで降りてこようとしない兄。その時の私にはその理由が分からなかったが…事故から何年も経ってから祖母が教えてくれたのは、あの時兄の足は前方の座席の下敷きになっていて出たくても出られなかったという事実。
そんな状況下の中、兄は私にひたすら声をかけ続けてくれていた。
『間違っても絶望なんてするな』
『この先も英里はずっと生き続けるんだよ』
『どこに居たって、俺はずっと味方だから』
『泣かないで、ひらりっ…』
『英里は笑顔が一番、かわいいよ』
『……笑ってよ、英里』
年の離れたお兄ちゃん。8歳年上だったお兄ちゃんはその年、高校生になったばかりだった。
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