パニックになる薬

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「開発していた薬の、実験結果が出たぞ。」  博士が紙を持ちながら、張りのある低い声で言った。内容は、被験者が薬を飲んだ後、突然錯乱し、数分後に錯乱はおさまった。副作用はない。というようなことだ。 「博士、ついに完成しましたね。」 「ああ、そのようだな。」  博士とその助手である私は、長年にわたって、パニックになる薬を開発していた。使用用途はある。例えば、戦場で銃を持っているのに発砲できない、臆病な兵士に薬を投与すると、パニックになり、銃を連射する。薬の濃度を薄めて、お化け屋敷などで使うと、より恐怖を味わうことができる。このように、さまざまなことに使えるのだ。 「どれ、安全性も効果も証明されたし、私が飲んでみようか。」 「危険ではないですか。」 「心配するな、効果時間はある。そのうち錯乱状態はおさまることだろう。薬を飲んだ私の姿を、見ていてくれ。」  薬を口にいれて飲むと、急激に様子が変化し、人が変わったかのようにわめきだした。 「おお、すごい。薬の効果がしっかりとありますね。」  数分後、わめきはおさまり、冷静になった。薬の効果が切れるまで、ずっと、わめいていた。 「気分はどうでしたか。」 問いかけるが、博士は、うつむいて何かつぶやいているだけだった。何回問いかけても、同じ様子である。  翌日も、同じだった。心配に思った私は、病院に連れて行った。そして医師に事情をはなし、結果が告げられた。 「博士は、うつ病です。薬を飲んだ時の、心の急激な変化により、錯乱状態になってしまったのです。それを実験が成功したと、勘違いをしてしまったのでしょう。実際は失敗で、うつ病になる薬だった、というわけですね。」 「でも、薬には効果時間があったんです。効果時間が切れると、うつ病も、おさまるはずではないでしょうか。」 「心の傷が、そんな簡単に治るわけないでしょう。それとも効果時間など、なかったのかもしれません。なんにせよ、薬によってのうつ病など、治す方法がまだ見つかっていないので、一生このままかもしれませんね。」
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