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いつになく丁寧に、優しくギルベルトの身体を清め終えた頃、規則的だった呼吸が微かに乱れ、ぴくりとその瞼が震えた。
「おはようございます」
ラファエルはにっこりと微笑み、その黒銀の瞳が開かれるのを待った。
「……!! ぎゃっ、待っ……も、マ……無理だかっ……な!!」
目を覚ますなり、ギルベルトは背後の壁まで一気に後退――ろうとしたものの、すぐさまシーツの海へと崩れ落ちる。
悲鳴染みたその声は裏返り、完全に嗄れている。
ラファエルは笑顔のまま、サイドテーブルに置いていた水差しからグラスに冷たい水を注いだ。
「飲めますか?」
「ひっ……」
「ギル……大丈夫ですか? 身体は辛くないですか?」
「ど、の口が……っ」
ギルベルトは余力を振り絞ってラファエルから距離を取ろうとする。
シーツの上をもぞもぞと芋虫のように這い動き、少しでも壁の方へと身を寄せる。
その様子を見て、ラファエルは一つ息をつき、持っていたグラスの水をひと口呷った。
それからグラスをテーブルに戻し、ギシ、と音を立ててベッドの上へと乗り上げる。
「よ、寄る、な、この、クソ……っ」
条件反射のように蒼白となったギルベルトはとっさに身を竦めるが、お構いなしにその顎を捕らえられた。
「んんっ……!!」
ろくに動けないギルベルトに、抵抗らしい抵抗はできない。
半ば無理矢理上向かされ、唇を重ねられ、口の中へと注ぎ込まれるそれをちゃんと飲み込むまで、ラファエルは口付けを解いてはくれなかった。
「っぅ、げほ……っ」
顔が離れると、今度は空気が流れ込んでくる。
軽く咳き込むギルベルトの肩をラファエルの手がそっと撫でた。
「すみません。僕、何も覚えていないんです」
「……え?」
「昨夜、何があったか……教えてもらえますか?」
「……は?」
ギルベルトはよろよろとながらも、口を拭っていた手を止める。
ラファエルは言葉通りに、どこか申し訳なさそうに眉尻を下げていた。
「マ……ジかよ……?」
そんな殊勝ともとれる姿に、ギルベルトは目を丸くする。
喉が潤ったからか、さっきよりは声が出た。
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