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「なんだそれ?」
「異国のお菓子です。ポッキーって言うんだそうです」
「ポッキー……」
いつもより少しだけ寒いその日、ふらりとギルベルトの部屋を訪れたラファエルは、手土産と称して持参した薄めの箱を早速開封した。
「……美味そうだな」
中から取り出されたのは、細長く成型されたビスケットに、きめの細かいチョコレートがかけられた繊細そうな菓子。それを目にしたとたん、すかさずギルベルトは手を伸ばしたが、すんでのところで「まぁ、待ってください」とかわされてしまった。
ギルベルトが漏らしたあからさまな舌打ちに、ラファエルはくすりと笑う。
「これにはね、ちょっと変わった食べ方があるそうで……」
「変わった食べ方?」
「食べ方というか……ゲーム? 勝敗のある……」
「勝敗!」
ラファエルは持っていた一本の菓子を眼前に構え、それ越しに正面に立つ一人の男をまっすぐに見据えた。
「先に逃げた方が負けなんだそうです」
勝敗。逃げたら負け。
そんな言葉にいとも簡単に食いつくギルベルト。
この人、ほんと大丈夫でしょうか。
心の中で思いながらもラファエルは笑顔のまま説明を続けた。
「目を逸らしても、顔を背けても、もちろん口が離れたりなんかしたら即刻終了です」
「俺さまがそんなことになるわけねぇだろ! 負けるかよ! 見てろ!」
ギルベルトは「貸せ」とばかりにラファエルの手からポッキーを奪うと、躊躇うことなくチョコがついている方をぱくりとくわえた。
(そっちをくわえるんですね……)
少々意外に思いながらもやはり顔には出さず、ラファエルはふっと笑みを深めた。
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