ポッキーの日

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早く来い(はやふほひ)!」 「はいはい」  半ば仁王立ちのギルベルトに真っ直ぐ向き直り、ラファエルはゆっくり顔を近付けた。それはもう、焦らすようにゆっくりと。  ギルベルトの反対側、ビスケット生地の部分を食むとばちりと目が合った。それを合図に、双方が食べ進め始める。  ラファエルはカリカリと小さく進んだ。  するとギルベルトが笑うように目を細め、がぶりと大きく進んでくる。 「…………」  かり、がぶり、かり、がぶり。  たちまち近くなる距離は、気がつけば鼻先が触れ合うほどになっていた。  お互い一瞬()ができる。普通なら我に返ってもいい場面だ。それでもギルベルトは退()かなかった。  ほんとちょろいですね、とラファエルは心の中で苦笑する。苦笑して、少し呆れて、そしてやっぱりそこがたまらないと思った。 「!」  次の瞬間、唇が触れた。  止まってしまったラファエルの反応をからかうように、ギルベルトが最後の間合いを詰めたのだ。 「俺さまの勝っ……――んぅ!?」  ふんっと笑って勝利宣言でもするつもりだったのだろう。顔を離し、口元を拭おうとしたギルベルトは不意に顎を捕えられ、そのまま全てを封じ込められた。もちろん、ラファエルの唇に。 「んんっ、ん――!!」  とっさに押し返そうとするといっそう指に力を込められ、走る痛みと共に強引に歯列を割られる。  できた隙間からすぐさま滑り込んできた舌先が、ギルベルトの口内(こうない)を好き勝手に撫で回し、嫌でも共有する羽目になったのは、辛うじて飲み込んだばかりのポッキーの味。 「うっ……ん、んん……っ!」  ラファエルはもう一方の手で胸元を掴み、そのままギルベルトを壁際へと追い詰めた。  絡めた舌を擦り合わせ、すくい取って吸い上げると、ほろ苦いチョコレートの味がほのかに追いかけてくる。
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