ポッキーの日

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「……っな、んなんだよ……てめぇは!」  口づけをほどくと、目の前で即座に口元を拭われた。それでもまだ口角にはチョコレートが僅かに残っている。  チョコレートの方を先にくわえたからかもしれない。 (ほんと……なんなんですかね、この人は)  手を離せば、ギルベルトは壁に沿ってずるずると身体の位置を下げ、そのまま床へと座り込んでしまった。 (……危なかった)  ラファエルはさりげなく視線を逸らし、密やかに息をつく。危うく止まらなくなるところだった。 「……悔しいですけど」  平静を装い、目を戻すと、微妙に腰砕け状態らしいギルベルトはすぐには立ち上がれないようだった。そんな姿を悠然と見下ろし、ラファエルはにっこりと微笑んだ。 「僕の負けでいいです」  そうして白々しく肩を竦め、小さく首を傾げて見せたけれど、 「なんで負けといて嬉しそうなんだよ!」  そればかりは顔に出ていたらしい。  いや、あえて出していたというべきか。  見るからに不服そうなギルベルトに、ラファエルは改めて微笑みかけると、 「まぁまぁ、残りは全部差し上げますから。好きでしょう、こういうの」  言いながら、残りのポッキーを箱ごとギルベルトに差し出した。 「どうぞ」 「き……嫌いじゃねぇから、もらってやるけど!」  ギルベルトの目が一瞬輝いた。本当に美味しい菓子には目がないらしい。  ギルベルトはそれを奪うように掴み取ると、いそいそと中を覗き込む。数本まとめて抜き出したそれを急くように口にくわえるさまはお世辞にも行儀がいいとは言えなくて、 (ほんと、なんで僕はこんな男がいいんでしょうか……)  思いながらも、ラファエルは今日もそんな自分に呆れるしかない。  どころか、刹那、視線を感じたらしいギルベルトにポッキーをくわえたまま顔を上げられると、 「――再戦要求をします」  結局、プライドも自制心も、ラファエルだって簡単に横に置いてしまうのだった。  おしまい!
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