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「誰も頼んでねぇ」  続けられた言葉にギルベルトはふいと顔を背け、半分ほど残っていたグラスの中身を一気に飲み干した。 「あぁ、またそんなむちゃな飲み方して……マスター(叔父さん)の作るお酒は飲みやすいわりに強いんですよ」 「だから良いんだろうが」 「あ……なるほど。また誰かに振られたんですね」 「なるほどじゃねぇ! またっていうな! 振られてねぇ!」  空にしたグラスを天板に戻し、かぶせるように言いながらも「おかわり!」と続けるのを忘れない。 「いいから帰れよ、てめぇがいたら酒が不味くなる」 「仕方ないですね……じゃあ今夜は僕が付き合ってあげます」 「聞いてんのか! 誰も頼んでねぇって言ってんだろ!」  ラファエルは構わず隣の席に腰を下ろす。次いでマスターから受け取った酒をギルベルトのグラスに注ぐと、「どうぞ」と優美に微笑ってみせた。さすが天使というべきか、その笑顔に目を奪われる者は少なくない。  けれども、ギルベルトにはそれが効かなかった。何なら気持ち悪いだの、胡散臭いとだのと吐き捨てられる。  それがまたいいのだとラファエルは思う。 「酔ってもいいですよ、僕の部屋すぐそこですし」 「は、言ってろ」  ラファエルが微笑む先で、ギルベルトはグラスを呷る。  次第に酔いが回り、目端を赤くしながらもギルベルトは飲むのをやめない。  それをもう一回繰り返したところで、ギルベルトの記憶はふつりと途切れた。 END?
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