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志望校を決める、六年の冬。
あの学校との出会いは、そこから始まっていた。
「おい、寺島、ちょっと来い。」
中学受験塾に通っている俺、寺島忠和(ただかず)は、塾の授業終わりに担当の先生に呼ばれた。
「なんですか。」
「いや、なんですかじゃねえよ、お前、志望校どうすんだ?」
どうすんだって言われても、困る。基本志望校云々は母が決めるし。
「明後日までに決めて提出するように。」
黙秘を決め込んだ俺に呆れた調子で先生は一枚の紙を手渡す。ここに書いてこい、ということだろう。
ため息を付きながらカバンのクリアファイルに入れておく。
門の前にいる警備員さんに挨拶してから塾を出た。塾を出ると父がいた。
「お!カズ!今日はお父さんデーなんだ!」
この無駄にテンションが高い父親はこれでも官僚、らしい。どこの省かも知らないが。
「うん、ありがとう。」
「あ、そうだ、志望校どうする?」
軽いな、やっぱ。その軽さに母の前では救われる、ときもある。基本ウザい。
「いまいちわかんない。やっぱり全寮制がいい。」
「だよな。家帰ったら机の上見とけ、頼んどいたパンフレットおいてあっから。」
意外としっかりしてんだよなあと思いつつ駅近のマンションの我が家に着く。
「たっだいまー!」
「只今。」
「おかえり、」
なんか母親、怒ってるかも。もう十二年一緒にいると声色でわかっちゃうんだな、これが。
手を洗って風呂に入って、偶に絡んでくる面倒くさい父親を軽く流して。
部屋に入る。とものすごい量のプチビル状態のパンフレットがあった。どうやら学校ごとに分けているらしい。一つ一つの学校のパンフレットが多いだけで、学校の数は5,6校しかない。
「ご飯よ、忠三郎。」
だから忠三郎じゃないって。
俺は、生まれたときから「別の人物の記憶」を持っていた。いわゆる前世の記憶ってやつ。
幼い頃から昔の人のような文字を書いたり、言葉遣いをしていた俺を不自然に思った親が、医者に見せたら、霊媒師っぽい人紹介されたらしくて、そしたら、「この子は寺島忠三郎の生まれ変わりです。」なんて言われたらしく、調べてみたら、幕末のマイナーだけど、志士ってわかって。で、父方の家が、その前世の「俺」と遠回りなりに繋がってるらしくて。父方は凄い騒ぎだったらしくて。
母親が忠三郎って呼ぶのは、多分、父方の家に気に入られたいから。
母親んちは、父との結婚を認めなかったらしい。で、いわゆる駆け落ちってやつをしたらしい。だから、離婚でもされたら困るんだろう。
そんな事を考えながら食卓につく。
「塾、志望校どうするわけ?」
知らないよ、日本トップの東大か京大か慶應に入れば文句ないんでしょ。
「お母さん、もう少し分かりやすく言って上げないと。あのパンフレットの中から選ぶといい。あそこらへんだったらお母さんも文句ない。」
「おじさんの母校もあるわよ。」
おじさん、父の兄だ。ハーバードに行ったらしい。今はアメリカでなんか研究しているらしい。多くの親戚が俺のことを「俺」としか見ていないのに対し、
俺としてみてくれている数少ない人だ。そんなおじさんの母校だったら考えてもいいかも。
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