夢の鍵 おバカな妄想日和

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 無い、無い! 無い! どこへ行った!  進次郎は自分に問うていた。夢に必要な鍵をなくした。  必死に思い出そうとしている今この瞬間。鍵さえあれば夢に近づくのにと。  これまでも何度も夢に見た。叶えるために十代の頃から必死に書いてきたんだ。だだが、見当たらない。まるで老人が死を迎える時のように、静かに何かを悟るように座り込む。  夢に満ちた人生を送れると思っていた。その鍵が思い出せない……。  夢とは作家になること。ある文学賞へ応募すべく書きためていた原稿用紙を入れた引き出しの鍵が無い。これから叶うであろう夢の鍵を無くしたようにも感じる。応募日にも関わらず無くしてしまったと、痛烈に唇を噛み締めていた。事故にあった訳でもない。ましてや病気なんかでもないと、早朝に行った医者の判断だ。 「たまにはそういうこともありますよ」
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