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第2遊
我が保育園ではめでたいイベント「即劇誕生会」というものが年内に二度行われる。ざっくりいうと即興で芝居をした後に園児達の誕生日を祝うのだ。
ただこの劇では指定の台本が無いため誰ももがアドリブのみで乗り切らなければならない。子供特有のユーモアから毎度カオスな展開に突入していくのが醍醐味だと保護者に人気である。
おやつの時間も終わり、外へ砂遊びがてら世空先生とのじゃれつきも中断され暇になってしまった。即劇会なんてどうせ毎回意味わかんない展開に振り回されるだけだから却って練習するだけ無駄さ。
と言いつつ2階のルーフバルコニーへ続く階段を登りきり、我が保育室の窓の前に立つと思わず固まってしまった。透明な壁の向こう側には顔の抹消された子供達が横一列に並んでいる。
「うわ………………きっしょ」
頭テカテカ顔もテカテカで生気を一切感じないマネキンもどきの陳列ショーだ。眼前に広がるカオスに生力を奪われかけたところで一体ののっぺら坊が近づきノックする。
「何やってんの! もう時間ないよ!」
「僕の担当台詞なんかあったっけ?」
「あるよ! 皆平等に与えられてるよ!」
「どこが? 世界を擬音語でしか表現出来ないんだぞ? 誰がやるもんか」
「ぽつっぽつっ……ぽつぽつ……」
「何それ?」
「ザァーーザァーーザァーーザァーー」
「もしかしてそれ僕の役真似?」
「ゴロゴロゴロッ……ゴロゴロ……」
「答えろって」
「ビューービュービュービ──」
気づいたらむかっ腹が立って、刹那的に側頭部目掛けてパンチを繰り出していた。少々厚めのラテックス素材の被り物だから手応えはない。が、僅かな声の揺らぎが聞こえたので取ってみる。
「殴られた……」
「自業自得だろ、散々馬鹿にしやがって……これに懲りたら二度と言うな」
のっぺら坊で隔てた先には目を見開き静かに頬を濡らす顔。こいつの名前は瞬牛、華成矢瞬牛だ。いつでもどこでも口を開けばゴールデンにやるモノマネ番組の感想や変幻自在の声色を持つ配信者に憧れるだのとにかく変身願望の強い奴さ。だからこそ自分を偽る、演じられる場を乱す僕にこうして絡んでくる。
「大体台本なんかいらないんだよ、即劇なんだからいつも通り気楽にやればいい」
「それじゃあちゃんと締まらないよ……明裏君がいない間に台本も修正したからしっかり確認して……」
「だからそういうの求めてないんだってば! あぁーもぅーー! おまえの自己満足に僕達を巻き込まないでくれよ! なあ! 皆もそう思うよなっ!?」
白塗りか被り物に身を包むどうでもいい奴らに同意を求めた。
すると列右端の子が挙手し一言。
「リーダーこいつ除外しましょう」
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