第3遊

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第3遊

 突然ではあるがここで戦隊モノのとある名場面を紹介しよう。主人公のレッドが恋するイエローを花火大会へ誘うデート回、急遽屋台のアルバイトに欠員が出て一緒に居られなくなるが、かき氷を買いに来てくれた彼女のクールな佇まいに彼は耳元で燦々と囁いたのさ。 「お前には四季とか関係なさそうだな。まったく年中冬みたいな奴だぜ。けど熱くなりやすい俺のそばに居てくれたら丁度いいかもな!」 「…………は? 今の話聞いてた? あんたを即劇に出す出さないの議論の最中なのよ? 何?                       今更我に返ってさっきの失言を演技力で取り消そうっての?」  違う。クールはクールでも作中のイエローはそんな冷たい態度で接したりしない。親しくなった者にしかわからない、僅かだけど温かみがあるはずなんだ。  じゃあ気を取り直してTAKE2。 「お前には四季とか関係なさそうだな。まったく年中冬みたいな奴だぜ。けど熱くなりやすい俺のそばに居てくれたら丁度いいかもな!」 「えっと……内容理解してる? お願いだから会話して。リーダーの指示を聞けないなら出なくていいって言ってるの。 おわかり? 1+1=いくつかなー?」  国民的ヒーローで例えるのやっぱなし。こんな憎たらしい奴と比較されんのは我慢ならない。優等生アピールうぜえ~いるよなこういう煽りマウントしてくる自分大好きっ娘。あー痛い痛い。 「あのさ、初歩的な数式よりも今周りにどう思われてるか観察してみたら? 自分の言動が及ぼす影響力も把握してない奴が人様に説教たれてんじゃねえよ」  台本ありきで徹底して覚えるやり方に不満を持つのは何も俺だけじゃない。組の半分とまではいかないがそれなりに反対意見は揃ってるんだ。  永続的な優位なんてクソ喰らえ。あとちょい決定打、いやそんな確実なモノじゃなくていい、誰かによる誰かの物真似みたいなうっすいパフォーマンスでいいから現状を引っ繰り返すいい手はないのか?  そこで煽りマウントしてくる自分大好きっ娘、略してマウ大と険悪ムードになったのを図るが如く、石像化していた華成矢がウキウキで割って入ってきた。 「そんなに怒らないで! 明裏君!」 「は?」 「ゴロゴロゴロとかそういう現象の音みたいなセリフが嫌なんだよね? じゃあ仕方ない……オレ王様役を譲るよ」  オレ王様とは、華成矢作の台本「オレオとカルテット」に登場する歌唱好きな王様のことだ。  作中はとにかく合間合間に歌うシーンが多い。  万緑の四重奏と呼ばれる典雅な歌声を持つ4人組がいて、合唱で最後の1人になるまでうまくハモれた奴が生かされるという無慈悲なサバイバルストーリーである。  中でも残された声楽家へ敬畏を表し捧げる王の鎮魂歌歌唱のシーンは締めの要となる。 「いや、そんな責任重大なポジションやりたくねえよっ!!!」 「こんな大役でもダメなんだ。明裏君はほんとワガママだなぁ。じゃあしょうがない………………四重奏の内の誰かにしてあげるよ」  最大の譲歩と言わんばかりの渋々顔で腕組みをする華成矢。 「仕方ねぇなみたいな顔すんなっ! 目立ちたくねえんだよっ! 歌なんて論外だっつうのっ! あーもうーめんどくせぇー出てやるよ! そのきっしょい仮面被って庶民役やっからっ! はいっ! キ・マ・リっ!」
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