追憶

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 私の母の実家は少々複雑だった。母の両親、つまり私にとっての祖父母は再婚で祖母には連れ子がいた。母の義姉にあたり私にとっては伯母。彼女はやがて生まれた母をひどく虐めた。実子である母が産まれたことにより疎外感を覚えてのことかもしれない。これは母から聞いただけなので鵜呑みにはできないが、まぁありそうなことだ。  伯母は奔放な性格で何度も家出を繰り返していたという。二十歳で妊娠、父親のわからない子を産んだ。これが私の従兄にあたる純一。伯母は子供を実家に任せきりにし男漁りを続けたが息子には執着したという。 「男は全員自分が一番じゃなきゃ気が済まないのよ」  吐き捨てるように母が言っていたのを子供ながらに覚えてる。だが純一は実母よりも母を慕った。それを知った伯母は当然面白くない。そんな義姉の様子を見て母はほくそ笑んでいたことだろう。  母は二十二歳の時、四歳年上の父と結婚しすぐに私が産まれた。しばらくは純一も母と疎遠になっていたようだが、私が小学校に上がるぐらいからまた足繁く我が家に来るようになっていた。夏休みともなれば祖父母も持て余すのか純一を母に押し付けるようになった。大嫌いな姉が執着する息子が自分に懐いている、という状況を母は楽しんでいたのだろう。最初はただそれだけだったのかもしれない。だがその愛情は徐々に歪んだものになっていく。  あれは私が小学三年生の夏。純一は中学三年生。夏休みのプール出校から帰宅すると玄関に純一のスニーカーがあった。 (また来てる……)  私は少し粗暴なところのある従兄が苦手で、嫌だなと思いつつそっと自室に足を向けた。 (ん? 何だろ……)  聞いたことのないような物音が両親の寝室から聞こえてきて足を止める。薄く開いた扉から見えたのは……。
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