そのひとことで、ぼくは

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 キーンコーンカーンコーン 「やっべ、チャイム鳴った」 「ダッシュ、ダッシュ!」 「移動教室やなかった?」 「うそー、ヤバすぎ!」  みんなが慌てて階段を昇っていく。  宗方は遠慮するように最後尾から階段を見上げていた。  みんなが踊り場を越えて姿が見えなくなった。俺は階段下を振り返り、宗方を見た。 「宗方」 「……あ、うん、急ぐ」 「そうじゃなくて。宗方ってバスケやってた?」 「え? あ、うん。ちょっと。でも、下手だったから」  宗方はこめかみを掻きながら階段を駆け上ってきた。 「いや、下手じゃなかろ」 「……いやいや、そんなんじゃないよ。下手だったんだ」  俺は駆け上ってきた宗方の前に立ちはだかった。目を丸くして宗方は怯えているように映った。 「下手じゃなかよ。むしろ上手い。しかも手加減してる。クラスマッチ、頼んだぜ」 「い、いやいや、勘弁してよ。そんなキャラじゃないから」  下手だと自分で思っているのなら、それは自分を卑下しすぎだ。もし、周りがそう言ったのなら、そいつらはバスケを知らない。  バスケは2メーター超えの選手が一人いても勝てない。チームスポーツだからだ。  ひとりひとりが歯車となり、攻撃と守備でどちらも奔走する。これを一人がサボると、点を取ろうが同じ点数を取られて永遠に追いつけない。このひとりひとりが歯車となる点が、まず基本線だ。  さらに上、勝てるチームにはその歯車を滑らかに動かす潤滑油となる選手がいる。  それが、宗方みたいな選手だ。  俺もダテにこの高校でキャプテンをやらせてもらっていない。選手の力量は分かるつもりだ。
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