そのひとことで、ぼくは

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 シャーペンをじっと見つめていた。とくに意味はない。はやく休み時間が終われとシャーペンにむかって念じていた。  いつもそうしてる。  その休み時間は想定外だった。  突如として声をかけられ、びくりと背中が震えた。  見上げると、クラスメイトでバスケ部のキャプテンがぼくを覗き込むようにして見ていた。  うちのバスケ部は全国制覇をすでに10回も成し遂げ、今年はインターハイ、国体をすでに制覇、あとはウインターカップを制覇すれば高校三冠を手にする。  そのバスケ部のキャプテン。それどころか、日本代表候補にも選ばれている。ぼくとは、生きる価値が違う。  そのキャプテンがいったい何の用だ? ぼくは返事ができなかった。 「次の20分休み、校庭でクラスマッチの練習するっちゃけど。誰かに聞いた?」 「ああ、うん、そうなんだ。でも、ぼくは出ないほうがいいけん……」  そう言うや否や、キャプテンは眉間にしわを寄せた。 「クラスマッチだからみんな出るけん、出んとかはやめとこうぜ」 「あ、うん。ごめん。じゃあ、ぼくは30秒とかでよかよ」  悲しい顔を浮かべられてしまった。 「俺、バスケ部やけん監督するけど、なるべくみんな出すばい? 下手でも全然よかよ。クラスマッチはそんなんじゃないから。とりあえず、次の休み時間な」  こんなに高かったっけ。  20分休みに久しぶりに外へ出た。校庭の隅にあるリングを見上げて口を開けた。  リングは空に浮かんでいるようにさえ見えた。  足もとにてんてんとボールが転がってきた。思わず左手を添えてボールを持ち、膝をたたんだ。 「わりい、とってー」  声をかけられてシュートモーションを解いた。声のした佐々木くんへパスを送って、背の高い佐々木くんはそのままシュートを撃ったがリングに嫌われてしまった。
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