そのひとことで、ぼくは

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 みんな楽しそうだった。  ぼくは最後の組で入り、シュートを撃ちたくて仕方なさそうな古賀くんをサポートした。  背が高くならなかった僕でも、ポジションさえ上手く取れればリバウンドは奪える。両足を広げて膝をたたみ、背筋を伸ばす。中に入ってくる人を抑えると、ボールが手の届くところへ跳ねてきた。  古賀くんはどこだ。  首を振ると、張り切りすぎてかリングの真下にまで入ってきている。みんなボールに集まってくるから、キャッチしていたら間に合わないだろう。僕はボールをタップして、古賀くんのほうへ送った。古賀くんはノーマークのままゴール下のジャンプシュートを決めて喜んでいた。    久しぶりのバスケは、あんまりボールには触れなかったけど、あの頃の感覚を呼び起こしてくれた。  ボールの重み。  リングの高さ。  ボードがボールをはじいて揺れる音。  ああ、思い出した。ぼくはバスケが好きだった。  チャイムが鳴ってみんなに続き、急いで教室に戻ろうとした。  階段の上にキャプテンが立っていた。 「バスケ、やってた?」  バレるのか。さすがだなと感心するや否や、思わぬ言葉が舞い込んできた。 「下手じゃなかよ。むしろ上手い」  謙遜したが、階段を昇りながらぼくは胸が高鳴るのを感じていた。  ──宗方、スコアつけてくれ。  ミニバスのコーチにいつもそう言われてきた。コートに立つ同級生や下級生たちを羨ましく見つめながら、スコアをつける日々だった。  ──宗方、得点板! 行って来い。  中学の部活ではほとんど試合に出ることは叶わなかった。得点板をめくりながら、遠くでミーティングしている仲間を見つめていた。ミーティングに参加できないから戦術が分からない。試合に出ても要求通りには動けないだろう。そんなことを考えながらペラペラと得点シートをめくった。  ぼくは下手なんだと思っていた。  下手だから、試合に出られない。  下手だから、大好きなバスケを辞めた。
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