あのバスで会えるなら。

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あのバスで会えるなら。

寒くて寒くて、凍えそうな手に温かい息を吹きかけていた。 朝のニュースで最高気温はマイナス2度と、最近可愛い系から綺麗系に転身した天気予報お姉さんなる存在が、鼻を真っ赤にさせて力説していたことを思い出していた。 季節はもちろん真冬の二月、如月。語源はまだ寒さが残る日に衣を重ね着するという意味らしいが、その通りに僕の格好は雪だるまのようにぶくぶくと膨れ上がっている。 ここは冬国の北海道網走市。冬になると流氷が流れてくると有名な街である。 この季節になると毎年、道の駅は観光客で賑わうし、二月中旬くらいには雪祭りなるものが開催される。 地元民か観光客か見分けがつかないほどに賑わう、年に一度の冬の祭典のようなものだ。 だから、彼に会えるのは朝の貴重なこの時間しかない。 今日も会えるかな。時刻は午前7時15分、家から歩いて5分のバス停は当然のように僕以外は誰も待っている人はいなかった。 後少し、もう少し。既に赤くなり始めていた右手で左のぷくぷくに膨れた上着をずり上げ、腕時計を見る。 7時25分、彼が来る時間だ。と、思った瞬間、隣から雪を蹴る音がした。 さり気なく隣を見る。やっぱり、彼だ。今日も変わらず、彼がいた。
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