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神宮の三姉妹
「巫女様、お綺麗だねえ」
童を背負った若い母親がささやいた。
神宮家の敷地内で、白木蓮が大輪の花をつけている。遠目に見ると枝に雪が積もったようである。
雪の花を背景に仲睦まじげに並ぶ娘が三人。木蓮にも負けず劣らずといった風情の、芳しく可憐な乙女たちに、客人らは息をのんだ。
「ああ、巫女様がお近くにいるだけで、空気が清らかに感じる」
ありがたや、とほつれた着物を纏った老婦人が両の手を合わせた。
三人の娘は、神宮家の巫女姫であった。
今日は長女・桜の誕生日。近隣地域で最も有力な巫女一族である神宮家は、巫女姫の誕生日、何人に対しても門戸を開き、祝いの席を設けるのが習わしだった。様々な身分の者たちが、神宮家の庭で、唄い、踊り、飲んで、食う。それが、神宮の祝賀会である。
「――いやねえ」
長女の桜は、蛇腹カメラに微笑を向けたまま、声色に不快さを滲ませた。
「お誕生日の宴は毎年楽しみだけれど、敷地内に一般客を入れるのは、まったく歓迎できないわ」
「本当に、桜お姉さまの言うとおり」
次女の百合も、カメラ目線のまま同意する。
「見て頂戴よ、あの薄汚いお婆さん! あのような身形でうちの敷居を跨ぐなんて、なんとまあ、身の程知らずもいいところ」
「全くですわ」
三女の藤も、小鳥のさえずりのような声で棘を吐く。
「すみずみまで消毒しなければ、変な病気が移りそう」
「きゃあ、こわーい」
桜と百合がくすくすと笑った。
カメラマンは少女たちの無邪気な毒に内心面食らい、レンズの中の美しい光景のみに努めて気を注いだ。
「さあ、撮りますよ――三、二、一」
満開の笑顔が咲く。
「いやあ、目の保養だね、神宮家の美人三姉妹」
一般客の青年が、振舞われた西洋酒を煽りながらうわ言のように呟いた。
「ああ、たまんねえ、まさに高嶺の花」
青年の同僚が同じく赤ら顔で首肯した。
「でも神宮家の巫女って確か……」
白木蓮の花弁がはらりと落ちる。
「四姉妹じゃあなかったか?」
「そういえばあの子今頃何をしているかしら」
百合がはしゃいだ声を上げた。
桜は瞳を三日月にして笑う。
「きっと未だ、お友達のにわとりさんと穴の中で仲良くしているわ」
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