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ビルの屋上から一斉に降り注ぐお札は、歩いている人たちの足を止めた。そして。
「あっ、一万円札!」
という声と同時に、金髪の人物がお金を拾い始めた。それを皮切りに、通りを歩く人達もお札を拾い始める。
「……人間の、お金に対する凄まじい執着心を改めて感じるね」
フェンスに背中を預けて街を見下ろす結希の隣で、なんでお前がやるんだと輝は驚きを隠せなかった。そんな彼の心境など知らない結希は、カバンを見つめながら訊いた。
「これ、かなり大金入ってたけど、いくらあったの?」
「……一億円。本当はもっとあるんだが、走って逃げることを予測すると俺はこの額を盗むのが限界だった」
「まだあるんだ……。ところで君は組に戻る気はないの?」
「ない。もううんざりだ」
即答してフェンスに腕を乗せた。組長の橘には学生時代からお世話になったが、いつからだったか、だんだんとやり方が荒々しくなり始めたときには早く逃げ出したかった。
「……で、これからどうするつもり?君はその組長さんのところに住んでたんじゃないの?もう帰れないよ?」
「……」
どうするかは決めていなかった。実は輝は、ここでお金をばらまいたら、何もかも終わらせるつもりだった。だから住む家がなくなろうとどうでもよかった。
でも人生を終わらせるなら、派手にやってからにしようと思った。そこで不当な金を盗んでばらまくという策を前々から考えて今日、実行した。
「もし何も考えていないのなら、私の助手にならない?実は最近、探偵業が忙しくてさ、そろそろ助手とかほしいなーって思ってたんだよね」
「……は?」
急に助手にならないかという言葉に、輝はマヌケな声が出てしまった。もう放っておいてほしいと思った輝はため息をついて、首を横に振った。
「……やるわけないだろ。……なんか気が抜けて死ぬ気がなくなった。じゃあな」
と、結希に背を向けて、これからどうするかと考えながら一歩踏み出すと、後ろから声がした。
「助手は冗談。でもこの出来事に関して君が協力してくれるなら、元仲間は一斉逮捕されて、君は助かるようにしてあげようと思ったんだけどなー」
結希の言葉につい足を止めてしまった。結希はそんな輝の肩をぽんと叩くと、彼の正面に回った。
「興味持ったんじゃない?」
「一斉逮捕って、本当にそんな事ができるのか?」
「できるよ。これとこれを使えばね」
結希が見せたのはカバンと、ポケットから出した数枚のお札だった。
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