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「……それだけで、一斉逮捕できるのか?」  輝の質問に、結希は頷いた。そして彼女は少し首を傾げてカバンを持ち上げた。 「協力する?しない?無理強いはしないけどね」 「やる。協力させてくれ」  頭を下げると、分かったという声が聞こえた。 「行動する前にいくつか質問。このカバンは誰でも使ってたもの?君専用のカバンじゃないよね?」 「誰でも使ってた。多額の現金を運ぶときはそのカバンだったから。……あと、俺は高谷輝だ。名乗ってなかったよな」 「確かにそうだったね。私、下の名前で呼んじゃうけどいい?私のことも結希でいいし」  輝が頷くと、結希はにっこり微笑んだ。そしてドアの方を振り向いて早口で言った。 「さてと、ばらまいた騒ぎでそろそろ警察来そうだから、まずはここから離れようか」  結希は早足でドアへと向かった。結希はこうと決めたら行動に移すのが早いなと輝は思った。早速置いていかれないように急いで追いかけた。  階段を下りきると、数人の男が床に転がっていた。結希はその男たちの近くにカバンと例のお札を置いた。  立ち去ろうと背中を向けると、輝を呼び止める声がした。振り返ると、一人の男が腹を押さえながらゆっくり立ち上がった。 「お前……。本当に裏切ったのか?こんなことをしたらお前は」 「俺はもう組には戻らない。……じゃあな」  輝は前を向いてビルから出た。その物陰で、結希が壁にもたれて待っていた。 「友達?」 「ああ。……あいつも捕まってしまうんだよな」 「もしかして捕まってほしくない感じ?まあちょっと動かせば、できないことはないけど。逃がしてあげる?」 「実はあいつ、父親の治療費のために無理してここに入ってきたんだ。できるなら逃がしてあげてほしい」 「分かった。ちっひー、仕事増えるんだけど……」  結希は耳元に手を当てて“ちっひー”という人物に指示を出していた。 「あ、あとさ、人が通らない公衆電話ってある?」  などと暗い道を歩きながら結希はずっとワイヤレスイヤホンで会話をしていた。  暗くなると冷え込みが強くなり始めた。寒いのが苦手な輝はマフラーを口元まで引き上げ、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。  しばらく歩くと、暗い公園で公衆電話が見つかった。 「あ、ここだね。ちょっと今から電話するから、輝は人が通らないか見張ってて」  結希は電話ボックスのドアを開けて中に入った。
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