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 左に突き飛ばされた輝の目の前に拳が飛んでくる。すんでのところで躱し、右アッパーを相手の顎めがけて殴る。よろめいたところで鳩尾を思いっきり蹴った。  もう一人は右左と連続で殴ってきたが、全ての攻撃を躱し、左手首を掴むと背後に回り込み思いっきり捻り上げる。相手は呻いて膝をついた。  腕っぷしは強いが、粗いところがある。元仲間の輝にしてみれば、こんなの大したことないメンバーなのだ。  結希はどうなったと周りを見渡すと、どこからパクったのか傘を手に戦っていた。結希の方が優勢のようで、傘を回しながら相手の足を払った。  傘を肩に乗せて起き上がってこないかしばらく見ていたが、そんな気配はないことを確認すると輝の方を向いた。彼も終わっていることが分かると、結希はにっこり微笑んだ。 「お疲れー。圧勝だったみたいだね」 「まあ、こいつらの戦い方は知ってたから。それより、その傘どうした」  輝の質問に結希は苦笑いして、一つのお店に視線を移した。店前に傘立てがある。そこからパクったらしい。 「まあ、傘折れてないし大丈夫でしょ」  結希はこっそり傘を元の場所に戻した。その後、輝たちの前に数台のパトカーが止まり、数人の制服警官が出てきて倒れている四人に手錠をかけた。  そのパトカーの後ろに車が止まる。そこからスーツの男と、金髪の女性が降りてきた。そしてもう一人。 「冬馬……!」  輝が冬馬のもとに駆け寄ると、彼は輝から視線をそらして頭をかいた。 「彼がここにいるってことは、私が指示した内容を言ったのかな?」  結希はスーツの男に小声で訊いた。話し方からして二人は知り合いのようだ。 「ああ。自分がばらまいたって言ってたよ。あとこの子は詐欺に関わったことないから、叱るだけで終わった」  その男の言葉に結希は頷く。そして金髪の女性に視線を移す。輝はその女性をどこかで見たことがあるような気がした。 「ちっひーもお疲れ。仕事増やしてごめんね」 「ほんと疲れた。結希の言葉をあの子に伝えないといけないし、やっとお店行けると思ったらここに来いって連絡が来るし。今夜は結希の奢りだからね」 「分かってるって。じゃ、あとは警察に任せて私たちは行こうか。その前にちっひー、あの紙渡した?」 「あ、そうだ。はいこれ。橘組の組員の名前のリスト。あとは任せたよ」  彼女は組員のリストをスーツの男に渡した。どうやって調べたんだと輝は驚く。  結希たちは輝の驚きをよそにお店へと向かった。
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