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『ちょっとしたアトラクション』
という声が、輝がつけたイヤホンから聞こえてきた。
とんでもない音が聞こえたが大丈夫なのだろうかと、輝は階段を降りながら思った。
駐車場に到着すると、後ろから走ってくる音が聞こえた。振り返ると、あちこちに葉っぱがついている結希がやってくる。
「……この季節に何したらそんなに葉っぱがつくんだ」
輝の指摘でようやく気づいたのか結希は全身を見て、頭やコートについた葉っぱを落としていた。
「あはは。忍者ごっこしてきた」
「……は?」
輝は眉を寄せたが結希はそれを無視し、運転席に乗り込んでしまった。輝も後部座席に急いで乗り込む。
「おい、忍者ごっこって何なんだ?」
「ちょっと結希、またあんた木に飛び移ったの?危ないからやめてって前に言ったよね?」
千紘が睨んでそう言うと、結希はバツが悪そうな顔をした。そして髪をほどいてわしゃわしゃと掻き乱した。
「……別に怪我してないからいいじゃん」
結希は木に飛び移ったことを否定しなかった。ということはさっきのガサッという音は、飛び移った際の音だったのだ。病院の三階からはあまりにも危険すぎる。千紘が怒るのも納得だ。
気まずい雰囲気が流れる。すると結希が大きくため息をついた。
「分かった。次から他の脱出方法考えるから。……それでちっひー、仕事終わってるの?」
千紘もため息をついてパソコンを結希に見せた。
「終わってるよ。ちゃんと原山のデータだけ公開させてない」
「そっか、分かった。じゃあ私たちは帰ろうか。輝も早くメイク落としたいだろうし」
輝から見ても分かるぐらい気落ちしている結希は、シートベルトをして静かに車を発進させた。
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