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車内では不貞腐れる結希と、機嫌の悪い千紘がいた。その後ろで輝はなるべく気配を消す。
信号が赤になり車を止めると、ちょうど誰かの着信音が鳴る。結希がいち早くスマホを取り出した。
「私のスマホだ。知らない番号からか……」
どうするのだろうかと後ろから様子を見ていると、結希はスピーカーに切り替えて電話に出た。
「もしもし。どなたですか?」
『……勝呂です。わたしの番号登録してないんですか』
勝呂凛の不満げな声がスピーカー越しに聞こえる。結希はその声を気にすることなく、輝たちに向かって人差し指を口元に当てた。静かにしててくれということだろう。
「登録するの忘れてました。それで私に電話してきた要件は?」
『そうそう。原山の事件について結希さんに伝えておきたいことがありまして』
信号が青に変わる。結希は何ですかと訊き、車を発進させた。
『実は原山を逮捕することができそうなんです。ついさっき、原山が在籍する研究室の研究内容が流出して、研究員が大騒ぎしていまして』
「へー、それは大変。でも泥棒が侵入したじゃん。そいつの仕業でしょ」
『泥棒は原山の嘘の証言だと思います。というのも、原山の研究内容だけ流出していなくて。しかも、企業の関係者が原山の病室を訪れたという目撃証言も出てきたんです』
知らない情報に驚いた輝は結希を見た。彼女はチラッと輝を見て口角を上げた。
「ということは、今から原山の家の捜索ですか?」
『……そ、それはまだ秘密なので言えません!失礼します!』
一方的に喋り終わると、凛はブツッと電話を切った。
「……あんなに情報を出しておいて、秘密って何なんだ?」
「凛さんは、私が原山のことを救うって考えたんじゃない?」
だが実際は真逆のことを結希はしている。結希が泥棒を救っていると知ったら凛は彼女を逮捕してしまうのだろう。
そんな状況を想像してしまった。輝はその想像を忘れようと外に視線を向けて、頭を空っぽにした。
そうしている間に車は、明日香たちが待機しているホテルに到着した。
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