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原山の事件が解決してから一週間。連日ニュースで事件が報道されていたが、それも落ち着いてきた頃、舞が事務所にやってきた。
「あれ?結希は?」
部屋に入るなり、舞は周りを見渡して結希を探した。
「本当に今さっき出ていきました。どこに行ったのかは俺も知りませんが」
舞に紅茶を出しながら輝はそう答えた。すると舞はため息をついた。そしてポツリと言う。
「唯斗のところかな……」
「唯斗って誰ですか?」
輝は向かいのソファに座り、舞に尋ねた。
「あれ、高谷くん知らないの?あの子、話してなかったんだ……」
また輝が知らないことがあるようだ。輝は前のめりになって舞に訊く。
「教えてください。唯斗ってどんな方なんですか?」
「結希が伝えてないなら、言わないほうが……」
「舞さんから聞いたとは言いませんので、教えてもらえませんか?」
珍しく食い気味の輝に、ダイニングテーブルに座っていた千紘は苦笑いした。
「珍しいね。結希の交友関係がそんなに知りたいの?」
「……俺は彼女のことを何も知らないんだ。彼女のことを知りたいと思うのは、おかしいことなのか?」
輝の質問に舞は首を横に振る。
「全然おかしくないよ。寧ろ何も教えない結希が悪い。うん!結希が悪いよ!」
何故か舞のほうが熱くなっていた。それを輝が宥める。すると舞は咳払いして落ち着きを取り戻した。
「あの子は今、病院近くの公園にいるんだと思う。実は唯斗は、その病院に入院しているの」
「え、入院?」
「一年前、唯斗は事故に巻き込まれてからずっと目を覚まさないの。あの子がちょくちょく出かけてるのは多分、唯斗に会いに行っているんでしょうね。……そして結希は、事故のときの記憶を失っているの」
「記憶を……」
舞は窓の外を見たあと、輝の方に向き直った。そして外を指差す。
「高谷くん、公園に行って。本当はあたしが行きたいけど、結希に寄り添えるのは、高谷くんしかいないから」
「……何故ですか?」
「だって結希は人嫌いだけど、出会って間もない高谷くんと普通に話してるだもん。心開いている証拠よ。姉のあたしが言ってるんだから信じて」
人嫌いということも初耳だが、それよりも輝はいち早く結希のもとへ向かうべく、ジャケットを羽織って公園へと走った。
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