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「牧野さんに行くように言われたのも理由の一つだが、やっぱり一番は、結希のこと一人にしたら駄目なんじゃないかって思ったんだ」 「もしかして、唯斗さんのこと聞いた?」  隣に座る結希を盗み見ると、彼女は俯いていた。 「……ごめん。牧野さんが、結希が唯斗さんのところに行ったんじゃないかって言ったから、どんな人なのかって聞いたんだ。でも牧野さんは悪くない。俺が無理に聞き出したんだ」  結希は息を吐いて、目の前に建つ病院を見た。 「どこまで知ってるの?」 「……唯斗さんが事故に遭って入院してて、結希がよくここに来てるってことと、あと」  輝はココア缶を持つ手に力が入る。 「結希が、事故の記憶をなくしてるってことを」  輝は隣を見ることができなかった。ここに来る前までは話を聞こうと思っていだが、いざ本人を前にすると、それは間違っているんじゃないかと思い始めていた。 「……唯斗さんと初めて会ったのは、私が施設にいた頃なんだけどね」  横を向くと、結希は病院を見上げていた。そしてその体勢のまま、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。 「中学生の頃、人と関わりたくなかった私に唯斗さんはしつこいぐらいに話しかけてきたんだ。施設の関係者でもないのに。それで私は、何でそんなにしつこく関わってくるんだって訊いたの。そしたら私には観察力があるから探偵やってみないかって言ってきて」  そのときを思い出しているのか、結希は少し笑った。 「そのときは、ならないし迷惑だから来ないでってはっきり言ってやったの。でも次の日も唯斗さんは来て、君の才能が必要だから俺に協力してくれってお願いしてきたんだ」  結希は輝の方を一切見ず、病院を見つめたまま話し続ける。 「必要とされるのは素直に嬉しかったから、私はたまに探偵事務所に顔を出してた。でも私は段々と唯斗さんの事務所に行くことを楽しみにしていて、高校卒業後は正式に唯斗さんの事務所で働くことになった。……それがずっと続くと思ってた」  結希は空を見上げて目を瞑った。 「でも一年前、唯斗さんは車との接触事故に遭った。運転手は、唯斗さんが急に道路に飛び出してきたからブレーキが間に合わなかったと言ってた。私は雅人に無理言って防犯カメラを見たら、確かに唯斗さんが飛び出す映像が映ってた。でも画像は荒いし、死角が多くて私は納得してないけどね」
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