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「……そんなの聞いてない」  結希は身を乗り出して唯斗に語りかけた。 「どういうことですか。お互いに隠し事はなしって約束してたじゃないですか!どうしてそんな重大なことを隠してたんですか!」  輝は、今にも唯斗に掴みかかりそうな結希の肩をそっと掴んで引き剥がす。結希の目には涙が浮かんでいた。 「私は信頼されてなかったんだ……」  結希は目元を乱暴に拭った。それを見ていた冬馬は輝に訊いた。 「山内さんと新藤さんってどういう関係なんだ?」 「結希は山内さんが営んでた探偵事務所で働いていたんだ」 「え、山内さん、探偵やってたの?」 「そうらしいな。俺も初めて知ったよ」  涙が止まらないらしく、結希は何度も目元を拭っていた。輝は自然と手を結希の頭の上にポンと乗せた。  しばらく誰も話さない時間が流れる。すると急に、病室のドアが勢いよく開かれた。 「やっぱりここだったのね」  病室に入ってきたのは舞と千紘。なかなか帰ってこない輝たちを心配して、駆けつけたらしい。  千紘は泣いている結希と、冬馬とケンちゃんを見て眉を寄せる。 「……何でここに健太(けんた)がいるの。冬馬も。あと結希を泣かせたのは誰」  千紘は、ケンちゃんを睨みつけながら訊いた。ケンちゃんの本名は健太だったようだ。そして、千紘に訊かれた健太は頭を掻いて答えた。 「うーん。結希が知らなかったことを話したから、原因は俺……、かな」  確かに結希が泣く原因を作ったのは健太の言葉かもしれないが、全ての原因が彼にあるとは思わなかった。しかし舞は健太に詰め寄った。 「ちょっと結希になんてこと言うのよ!最低!」 「ケンちゃんのせいじゃないです。私が勝手に唯斗さんのこと理解してるって思ってただけだから」  結希は淡々とそう返すと、輝の手を払って病室を出ていった。 「……帰りましょう。ここにいても、なにかできるわけじゃないし」  舞の言葉に輝を除く全員が頷き、次々と病室を出ていく。続けて出ようとした千紘は振り返って、自分の手を見つめている輝に声をかけた。 「……輝、行くよ」 「……ああ」  輝は拳を強く握ると、千紘に続いて出ていった。
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