優等生の朝

1/2
92人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ

優等生の朝

「髪型・・・制服・・・うん。大丈夫だよねっ。」 鏡に映った自分の姿を指さし確認し、小さく頷く。 長い黒髪は後ろで一本に結び、前髪は風が吹いても乱れないように、しっかりと右耳の少し上辺りを黒いヘアピンで留める。 制服の紺色のリボンは崩さず、グレーのブレザーの前ボタンもきっちりと掛け、チェックのプリーツスカートの丈は絶妙なラインで膝を隠す。 色付きリップもフレグランスも付けず、アクセサリーなんてもっての外。 目立ちたくない、教室の隅で大人しくしていたい・・・それなのに今年もまたクラス委員に選ばれてしまった。 鏡の前の優等生な自分を前に、小さくため息をつく。 たしかにテストの成績は他の生徒よりも良いかもしれないけど、クラス委員って統率力とか求心力とか・・・いわゆるコミュニケーション能力が必要なんだと思う。 なのに、私にはそういった才能がまったくない。 多数決で何かを決める時は、いつも大きな波の方へ流されるし、メニューを決めるときはひとりだけ別のモノを頼んで時間差が生まれないように、誰かと同じものを頼む。 カラオケでは空気を読んで、その時の流れに合わせた歌をセレクトする。 本当に好きな食べ物や歌は、一人きりの時に楽しめばいい。 集団でいるときは誰かについて行けばとりあえず大丈夫、なんて思っている。 穏やかな性格だと言われるけれど、特に主張する何かがないだけ。 根無し草のように風に吹かれて、あっちへふわり、こっちへひらり。 そんな私だけれど、社会に対してはもの申したいことも多々ある。 世の中には信じがたいことをする人間が沢山いる。 道端に平気でゴミを捨てる人・・・ゴミが出たら家に持ち帰ってゴミ箱に捨てればいいのに。 せめてコンビニに設置されているゴミ箱に捨てるとかして欲しい。 人にぶつかっておきながら謝りもせずに立ち去る人・・・骨が弱いお年寄りが倒れたらどうするの? お年寄りはちょっとした骨折が原因で寝たきりになってしまうこともあるのよ? 優先席に座りながら大きな口を開けて眠りこける人・・・目の前の妊婦さんに気付かないの?それとも気付かないふりをしているの? 駐輪場の自転車をわざと倒す悪ガキ、綺麗な壁にラクガキする不良、公園の花の枝を折って持ち帰る不届き者・・・。 こういうことにいちいち腹を立てていては、身が持たないことはわかってる。 でも許せないものは許せない。 ううん。本当に許せないのは、そんな光景を見ても注意ひとつ出来ない自分。 思っているだけで、声にだせない臆病な私。 せいぜい自分はそんな人間にはならないようにしよう・・・そう心で強く思うだけ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!