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コール・ゼーダン基地
地球を覆いつつある二酸化炭素。
火星の大気は元々それで埋め尽くされていた。
いわば、地球の大気の未来像かも知れない。
そう単純ではないにしろ、火星の大気を人間が生活できる組成に変える研究が進められている。
土壌には鉄分が多く、ほとんどの植物は育たない。
藻類を育てるにも水がない。
例外的にソテツは寒さにも強く、鉄分で元気になった。
寒さ、といっても平均マイナス60度である。
夏になれば過ごしやすい気温だが、冬にはマイナス130度ほどになる。
重力が弱いから、地球ほどの大気を留められないのだ。
まずは基地を作り、安定した環境でソテツを育て、徐々に火星の環境に慣らしていく。
火星環境調整プロジェクトリーダーの三星の元にメッセージが届く。
「俺がロリー・ポリーに乗れって」
少々声が裏返った。
毎日火星の大気を分析し、ソテツの世話をしてきた研究員に、突然の左遷が言い渡された気分だった。
「コール・ゼーダンも、すでに500人を超える人間が生活するようになった。
研究者としての仕事に一区切りをつけて、人類の夢を追うミッションに挑んでもらいたい」
どうもスッキリしない話だった。
宇宙飛行士になった三星は、火星に来ただけで満足だった。
ソテツを育てる仕事にも不満はない。
この先に人類の繁栄がかかっているからだ。
そんな俺が、地球外生命体を求めて土星へ向かう ───
窓から見える景色は、赤く燃え盛るように見える。
薄い大気の天井は暗く、突風のように強烈な砂嵐が吹き荒れる。
地球よりも星がたくさん見える夜、ビールをちびちびやりながら、培養肉を噛んでいた。
「宇宙人 ───」
子どものころは夢見たし、マンガや映画でSFものを見れば大抵出てきた。
だが、実際に宇宙へ来てみれば人間が生きていくには、あまりにも過酷な条件だった。
科学技術が進んでも、生命誕生の仮説はあまり変わらない。
生物は物質の化合物だろうか。
ロマンチストではなくても、生命の特殊性を認めざるを得ない。
意図的に栄養を注入し弱い重力で育てたソテツは数十メートルに育ち、大量の酸素を発生させた。
扇状に青々と伸びた葉が、三星を慰め、背中を押すように見えた。
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