戦場カメラマン

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戦場カメラマン

 隣りの窓にカメラを構え、宇宙人を撮る人影に気づいた。 「ミツさん」  連続撮影のシャッター音を止めて、美月が振り向いた。 「寝てる場合じゃないわね。  さっきの、アレが喋ったの」  興奮して早口で質問した。 「そうです。  ホシさんにも聞こえていました」  声を震わせて話すと、また外へ視線を移す。  もう数メートルまで迫っていた。  宇宙人は、触手を一本伸ばしてきた。  ぐにゃぐにゃと柔らかく動いていた触手が、棒のようにまっすぐ伸びていく。  間近で見ると、光沢がある。  粘液で潤っているのだろうか。 「タラム、人間の研究サンプルが欲しいなら、俺を連れて行ってくれ。  その代わり、中の2人は見逃してくれ」  頭を下げて、声を絞り出す。  言葉が通じたのか分からないが、いくぶん動きが緩やかになった。  ついに触手が三星の脇腹に触れた。 「ミツさん、何をするつもりですか」  手早く宇宙服を身につけ、エアロックに入ってしまった。 「窓越しに撮ったんじゃ、プロの仕事じゃないよ。  写真は、身体張ってなんぼさね」 「せめて銃を持って行ってください」 「私にとっちゃ、こいつが銃さね」  カメラを持ち上げて見せた。 「ミツ、来るな。  死ぬのは俺一人で充分だ」 「殺すつもりなら、シップにいたって一緒だよ」  船外に出ると、壁を伝ってタラムに近づいていく。  遮蔽物(しゃへいぶつ)なしで見ると、生きた心地がしなかった。  三星は目を閉じ、手を合わせて念仏を唱え始めた。
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