エンジニアとして

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エンジニアとして

 触手は三星の脇をすり抜け、(ふた)を開けた配線をいじり始めた。  一本一本、感触を確かめるように触手が撫でる。 「シップを壊すつもりか」  タラムはもう一本触手を伸ばし、いじくり始める。 「タ・ラム、直す。  するな。  心配。  エンジニア」  タラムの声が響く。  触手掴んでやめさせたいが、怒らせると何をするかわからない。  目の前にはタイタンがターコイズブルーの光を放っていた。 「ホシさん、警報が止まりました。  直ったんですね」  もうダメだと顔を(おお)っていた手を少し開いた。  タラムがこちらを見つめている。 「直る。  スペースシップ」  ゆらゆらと触手を動かしながら、大きな目を輝かせた。 「ここにいる。  君たち。  する」  断片的だが、意味のある言葉を喋っていると思い始めた。  3人とも日本人なので、日本語で話している。  会ったばかりのタラムは、すでにある程度コミュニケーションができるようになっていた。 「私たちはタイタンに降りて地球外生命体の手がかりを探すつもりだった。  でもタラムに出逢ってしまった」  天城は(うなず)いた。  タラムは、三星の目線を追ってタイタンに目をやった。  美しい。  宇宙を旅すると、常に死の影が忍び寄ってくる。  遠くの星々は、産まれては消え無常の世界を描いている。  タイタンは、人類に何をもたらすのだろうか。  ぼんやりと考えていると、タラムも同じ方向を見ていることに気づいた。 「タラム、タイタンには何がある」  触手をくねらせて、目を細めた。 「人間、タイタン、毒。  ガス。  身体、凍る。  なぜ行く」  タラムの眼は澄んでいた。  触手の滑りも、星を写し輝いて見える。  スペースシップを直してくれた。  我々は誤解していたのかも知れない。  人間は万物の(あるじ)であるなどと驕っていたのだ。 「何か、アドバイスがあるなら言ってくれ」  触手に触れると、宇宙服越しに生命の波動のようなものを感じた。
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