Episodo 1

1/4
前へ
/5ページ
次へ

Episodo 1

「おい、一星」 背後で感情を抑えながらも、少し怒った声が俺の背中に向けて発せられた。 またか、俺が木下と打ち合わせをしている時に限って、その声は聞こえる。 「はい、何ですか?」 木下に、ちょっと待ってと、目配せをして、振り返る。 ダークグレーのスーツに淡い蒼色のシャツ。 上から2つ、シャツのボタンを外して、専務用の専用椅子に踏ん反り返って坐る男。 皆見 優二。 なんでネクタイしてないんだよ。その服装に少しイラっとする。 俺の「何ですか?」の問には答えず、顔だけこちらに向けて、俺を睨んでいる。 全く、面倒臭い。 俺は、席を立って、彼の元へズカズカと歩く。 「皆見専務、ご用件は?」 彼のデスクに手を付いて、視線を合わせる。 「昨日の打ち合わせの資料、まだ見てないけど」 合わせた視線を外された。 「今持ってきます」 専務のデスクから離れて、俺は自分のデスクの上から、資料を手に取ってまた、専務に向かって歩き出す。 「はい、専務」 デスクの上に半ば放り出す様に、資料を置いた。 専務がまた俺を睨む。 睨んではいるが、瞳の奥底には何か寂し気な感情があると、俺は最近になって思う様になった。 それが何に対しての寂しさなのかを、この時の俺は知る由もなかった。 彼はいわゆるイケメンだ。身長も高く、高学歴で、それなりに教養もある。 しかし、如何せん、態度が悪い。というか一挙一動が「怖い」。 女子社員の間ではこの見た目から、人気はある様だけれど、話しかけただけで、睨みつけるらしいので、誰も近づかない。 俺がこの会社に入ってから、彼が仕事以外の話を社員としているのを1度も見た事がない。 そんな横柄な専務に対してこんな態度がとれるのはこの会社では俺だけだ。 何故かと言えば、彼が俺の叔父だからだ。

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>