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あまり感情を見せることのない本田が怒ってる。
驚いて怯みそうになりながらも、自分を鼓舞するかのように主張を繰り返した。
「ま、まだ……一緒にいたいです」
「車で送る間は一緒にいられます」
「そうじゃなくて……ちゃんと一緒にいたい」
震える声でそう伝えると、本田はいつもよりずっと冷ややかな表情で返した。
「承諾できません。お帰りください」
表情だけでなく声も冷たく感じられて、怖くて思わず俯く。
それでもなお怯みたくないと思うのは、きっと心の奥底で怖さとは違う微かな期待を抱いているせいだ。
それを間違いだと気づきもせずに首を横に振る。
「嫌……帰りたくない」
「今のあなたは酔っていますし、9日後には少し会えます。それまで頭を冷やして――」
「嫌です」
本田のスーツの袖をグッと掴むと、本田はハーッと息を深く吐き出した。
「――それまで頭を冷やして落ち着く時間を僕にください、とお伝えしたかったのですが、嫌ですか?」
「嫌!」
迷いなくそう答えてから気づく。
……え? 私じゃなくて、本田さんが頭を冷やす時間?
恐る恐る本田の顔を見上げると、穏やかさとは真逆の冷淡で獰猛にも見える瞳が、闇の中で月の光に照らされて見えた。
「今夜は優しくなんてできませんよ?」
怖いのにめちゃくちゃにしてほしい。
この感情は贖罪? それとも渇望?
ゴクリと唾を飲み込むと、本田の腕に震える手でギュッとしがみついた。
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