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しばらく黙ったままだった本田にグイッと体を引き離された。
「……本田さん?」
本田は息を詰めて一度俯くと、目も合わせずにそばから離れていく。
「どこがマシなんだ……」
そう呟くのが聞こえて間もなく、本田は近くに無造作に置かれていたバッグに手を伸ばした。
「送れなくて申し訳ありませんが……すぐそばの通りにまだタクシーが走ってる時間なので拾ってください。来なければ電話で呼んで、必ずタクシーを使って」
そう言って、長財布から取り出した紙幣を押し付けるように手渡される。
「……え?」
「今すぐに帰って。こんな僕のそばにはいない方がいい……」
「……で、でも――」
「お願いですから帰ってください」
本田はそう言うと、フラフラと廊下を歩いてリビングへ入っていった。
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