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涙を拭い、乱れた服を直して深呼吸してから本田の元へ向かうと、本田は明かりも付けないまま真っ暗な部屋で項垂れてソファーに座っていた。そばに近づくと月明りで本田の横顔が見える。
「……本田さん」
「帰ってくださいと申し上げたでしょう……。なぜ帰らないのですか?」
こちらを見ないまま問うその声は未だ冷たいものの、僅かな震えを感じる。
「本田さんのことが好きだからです」
「……あんなことをされたのに? あなたはどうかしてる。怖かったでしょう?」
どうかしてる? そうなのかも。だって、怖いと思ったわりにはちっとも気持ちが揺らいでない。たとえ嫌われても、きっとずっと好き。
「でも今日は、どう考えても私が悪いですから」
「仮にそうだとしても、あなたに乱暴を働いていいわけではありません。……あんなことは……許されない……」
声を震わせて俯く本田の手にそっと触れると、ピクリと反応を示したその手は小刻みに震えていた。
それがわかって思った。
あぁ、やっぱり帰らなくてよかった、と。
「許されないなんてことはありません。私は大丈夫ですから」
「そんなわけないでしょう……」
抑えきれずに衝動的に怒りをぶつけてしまった自身のことを、きっと本田は整理できずに混乱してる。恐れている。
でも本田が悪いわけではない。優しい彼をこんなふうにしてしまったのは、バカな私だ。
彼にとって当たり前に封じ込めてきた負の感情を……決して表に出すべきではなかった酷く尖った感情を、私が無理矢理こじ開けて出させてしまったのだから。
そうでなければきっと彼は、次に会う時までに真ん丸で柔らかなものに変えて、いつもどおりに優しく接しようとしていたのだろうから……。
「いいえ、私は本当に大丈夫です。だから……本田さんが今思ってること、はっきり言ってもらえませんか?」
そう伝えて本田の手をギュッと握る。本田は黙って俯いたままだったが、強い意志をもって話し続けた。
「むしろ言いたいことは言ってください。私には隠さないで。我慢しなくていいです。だって本田さんは私にとって、バトラーでも秘書でもなく……こっ……こここ恋人…………なはずなので……たぶん……あ、でも今回のことで、もう振られちゃった……かな……?」
うっわ~、相変わらずしまらないな、私。
途中までは強気で行けたのに、自信の無さが隠しきれなかった情けなさよ……。
しょっぼーん。
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