07. 露呈

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自分の無様さにしょぼくれていると、本田は数秒沈黙したのちに俯いたまま肩を小さく震わせ始めた。 まさか本田さんが泣いて―― ……ないね。笑ってる。 「まったく……何なんですか、あなたは……」 「す、すみません……」 「振ってませんよ。僕が振られることならあり得ますが」 「ないです」 即答したら、本田はまたフッと小さく笑い声を上げた。 「あなたという人は……他者への意志ははっきりしてるわりに、どうしてご自分のことはそんなにも自信がないんでしょうね」 「だって……」 「そして僕に気持ちを落ち着かせる時間も考える時間も与えてくれないらしい」 「すみません……。決して隙を与えない戦法とかそういうことではないんですけど……」 戦法でもテクニックでも何でもなく、気になったら体が動く。ただそれだけだ。 すると本田は俯いたまま、いつものような落ち着いた口調で話し始めた。 「僕はずっと、ネガティブな感情というものは全て自分の中で咀嚼(そしゃく)して、時間をかけて気持ちを消化していけばいいものだと思っていましたが……あなたとならば、違う方法を取ってもいいのかもしれませんね」 「……え?」 ハァッと息をついた本田は顔を上げると、ソファーから立ち上がってふわりと優しく抱きしめてくれた。 「僕が怖くはありませんか?」 抱きしめてくれる前に一瞬見えた本田の表情は苦しげで、包み込む腕は恐る恐るという触れ方で…… 「全然怖くないです」 『大丈夫』と伝えたくてギュッと抱きつくと、本田はまだ僅かに震えている手で掻き抱くようにギュッと抱きしめてくれた。 「真央……ごめん」 ごめん、ごめん、と何度も何度も謝るみたいに力がこもる。 それはすごくホッとするものであり幸せなものであり……頬が緩んだのと一緒に涙がホロッと零れた。 寂しくて苦しくて隙間だらけになっていた心のピースが、徐々に埋められていくようだった。
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