07. 露呈

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「真央……あんな乱暴なことをして怖がらせて……ごめん」 「全然平気です」 「嘘だ」 「本当はちょっとだけ怖かったです」 「ごめん……」 本田はそう言って、またギュッと抱きしめてくれた。 その手はまだ少し冷たくて、首筋に触れる頬も冷たい。大きな背中を撫でてあげたくなって、ゆっくりとそうした。 「はい。もう平気です」 「……ごめん」 「ほかに思ってることはないんですか?」 「俺から言えることなんて謝る以外にない」 言い訳はしない。自分を守ることもしない。すごく潔くてかっこよくて本田らしいのだが……それはバトラーや秘書なら立派なことだ。 でも恋人としては……? 「それなら本田さん、先に私から話してもいいですか?」 返事をする代わりみたいに、本田の腕にギュッと力がこもる。 「男の人と二人でお酒を飲みになんて行って、しかも酔って抱きしめられたりして、私が迂闊でした。ごめんなさい」 「……」 「断るのが下手で難しくて、どうしたらいいか迷ってる間に流れるように居酒屋に連れていかれて、それで話を聞いてくれるって言われて……本田さんに会えなくて寂しい気持ちを吐露しました」 「……そう……ですか」 「でも話してるうちにもっと苦しくなってきて……苦しいのをごまかすみたいにお酒を飲んだらふわふわして楽しくなってきて……だから川上さんが『ずっと楽しそうに笑ってた』って言ってたのはそういうことです」 「……」 「それで駅まで送ってくれた川上さんに『俺と付き合わない?』って言われて、足元がフラフラしてるうちに抱きしめられて」 「……ッ……はい」 「ゾワゾワ~って寒気がしました」 パッと腕を解放した本田は、困惑した表情でこちらを見つめる。 「……え? 寒気?」 「はい。すごく嫌でした。本当に嫌でした。ものすっっっごく嫌でした。蓮香ちゃんから護身術を習っておけばよかったって思ったくらい。わっ、思い出したらまた鳥肌が立ってきた~」 ゾワゾワと背筋を寒気が走って、それを追い払うように両腕を摩っていると、本田がぼんやりと佇んでいるのが見える。 「あの……私、本田さんじゃないと嫌なんです。ゾワゾワを忘れたいので、もっとギュッてしてもらえませんか?」 すると何か堪えたような顔をした本田はプイッと顔を背けた。 「お断りいたします」 ここでまさかの塩対応。ちょっと意外だ。 「えー、どうして?」 「僕を都合よく使わないでください」 ……あれ? これはもしかして、ちょっと拗ねてる? これも焼きもち? そんな本田がかわいい。 「本田さん……私、寂しかったです。6月の本田さんの誕生日の後からゆっくり会えなくて、すごく寂しかった」 「それは本当にごめん……。悪かったと思ってる」 そう言って、本田はまた優しく抱きしめてくれた。 さっきは『お断りいたします』って言ってたのに、結局抱きしめてくれる本田もかわいい。 それにしても何だか口調が敬語だったりそうじゃなかったりの間で行ったり来たりとユラユラしてる。 ……もっと“こっち”に来てほしいな。
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