第三章 愛しさと拒絶と

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 気が付くと、高い天井が目に飛び込んできた。微かに、心地良い音楽も流れてくる。瑞紀は、慌てて周囲を見回した。ベッドに寝かされている。どうやらここは、ホテルの客室のようだった。  ふと見ると、サイドテーブルにメモが置かれていた。『HOTELブラン』と印字されているところを見ると、あのままこのホテルで休ませてもらったということか。瑞紀は、起き上がってメモを手に取った。 『瑞紀さんへ  この部屋は、僕の名前で一泊取ってあります。村越壮介にはしかるべき措置を執ったので、安心してゆっくり休んでください。抑制剤は飲んでもらいましたが、もし追加したければ、予備が冷蔵庫にあります。何かあれば、フロントに電話するように。支配人に繋ぐよう、話は付けてあります。 小田桐』 (いつの間に、抑制剤を……?)  瑞紀はベッドから抜け出すと、冷蔵庫を見に行った。中には、確かに抑制剤とペットボトルの水が入っている。どちらも開封した形跡があったが、その抑制剤は、瑞紀が所持していたものではなかった。つまり、聖が手配してくれたということか。  戸惑いながら、瑞紀はベッドへ戻った。フロントに電話すると、ワンコールで女性の声が返ってきた。ひどく緊張した様子だ。 『中森様、何かございましたでしょうか?』  どうやら瑞紀の存在は、しっかりと周知されているらしい。瑞紀は、支配人と話したいと告げた。ややあって、年配らしき男性が電話に出た。こちらもまた、たいそうかしこまっている。そんな彼に、瑞紀はひとまず礼を述べた。 「この度は、大変お世話になりました」 『いえ! こちらこそ、社員がご迷惑をおかけしたそうで、まことに申し訳ございませんでした』  聖が壮介のことをどう説明したのかは知らないが、支配人は平身低頭といった様子だった。 『ご体調はいかがでしょうか。何か必要なものなどございませんか?』 「ありがとうございます。特に無いですが……、さ、小田桐さんはどうされました? まだこちらにいらっしゃるのですか?」  すると支配人は、一瞬沈黙した。 『いえ。もうお帰りになりました』 「……そうですか」 『何かご伝言でも?』  いえ、と瑞紀は言った。 「いろいろと、ありがとうございました。では」  電話を切った後、瑞紀は考え込んだ。少し迷ってから、スマホを手に取る。連絡先から『小田桐聖』を選んで、発信した。  相手は、二コールで出た。 『瑞紀さん? 大丈夫ですか?』  おかげさまで、と瑞紀は答えた。 「今日は、本当にありがとうございました。助けてくれたことも、お部屋のことも……。それから、オーディションの件も。上手く演じられたと思います」  一気に言い切った後、瑞紀は尋ねた。 「聖さん。同じホテルに泊まってらっしゃいますよね?」
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