134人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付くと、高い天井が目に飛び込んできた。微かに、心地良い音楽も流れてくる。瑞紀は、慌てて周囲を見回した。ベッドに寝かされている。どうやらここは、ホテルの客室のようだった。
ふと見ると、サイドテーブルにメモが置かれていた。『HOTELブラン』と印字されているところを見ると、あのままこのホテルで休ませてもらったということか。瑞紀は、起き上がってメモを手に取った。
『瑞紀さんへ
この部屋は、僕の名前で一泊取ってあります。村越壮介にはしかるべき措置を執ったので、安心してゆっくり休んでください。抑制剤は飲んでもらいましたが、もし追加したければ、予備が冷蔵庫にあります。何かあれば、フロントに電話するように。支配人に繋ぐよう、話は付けてあります。 小田桐』
(いつの間に、抑制剤を……?)
瑞紀はベッドから抜け出すと、冷蔵庫を見に行った。中には、確かに抑制剤とペットボトルの水が入っている。どちらも開封した形跡があったが、その抑制剤は、瑞紀が所持していたものではなかった。つまり、聖が手配してくれたということか。
戸惑いながら、瑞紀はベッドへ戻った。フロントに電話すると、ワンコールで女性の声が返ってきた。ひどく緊張した様子だ。
『中森様、何かございましたでしょうか?』
どうやら瑞紀の存在は、しっかりと周知されているらしい。瑞紀は、支配人と話したいと告げた。ややあって、年配らしき男性が電話に出た。こちらもまた、たいそうかしこまっている。そんな彼に、瑞紀はひとまず礼を述べた。
「この度は、大変お世話になりました」
『いえ! こちらこそ、社員がご迷惑をおかけしたそうで、まことに申し訳ございませんでした』
聖が壮介のことをどう説明したのかは知らないが、支配人は平身低頭といった様子だった。
『ご体調はいかがでしょうか。何か必要なものなどございませんか?』
「ありがとうございます。特に無いですが……、さ、小田桐さんはどうされました? まだこちらにいらっしゃるのですか?」
すると支配人は、一瞬沈黙した。
『いえ。もうお帰りになりました』
「……そうですか」
『何かご伝言でも?』
いえ、と瑞紀は言った。
「いろいろと、ありがとうございました。では」
電話を切った後、瑞紀は考え込んだ。少し迷ってから、スマホを手に取る。連絡先から『小田桐聖』を選んで、発信した。
相手は、二コールで出た。
『瑞紀さん? 大丈夫ですか?』
おかげさまで、と瑞紀は答えた。
「今日は、本当にありがとうございました。助けてくれたことも、お部屋のことも……。それから、オーディションの件も。上手く演じられたと思います」
一気に言い切った後、瑞紀は尋ねた。
「聖さん。同じホテルに泊まってらっしゃいますよね?」
最初のコメントを投稿しよう!