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しばらくの間、聖はじっと瑞紀を見つめていた。やがて、静かに告げる。
「僕も、あなたが好きです」
胸が熱くなる。だが瑞紀は、その台詞を喜ぶことができなかった。聖の顔には、苦悶の表情が浮かんでいたからだ。
「ですが……、お気持ちには応えられない」
その言葉は、瑞紀が予想していたものだった。
「誤解しないでください。瑞紀さんだからじゃない。先ほど、結婚するつもりはないと申し上げましたが、僕は恋愛するつもりすらないのです。番も作らないと決めています」
「どうして……」
瑞紀には、聖の意図がまるで理解できなかった。聖の顔が、さらに歪む。
「何と言いますか……、僕には、幸せになる資格が無いんですよ。瑞紀さんのことは好ましいし、力になりたいと思っています。養成所の件や、村越の件、その他困ったことがあれば、何なりと相談してください。けれど……、そういう意味では、これ以上関われません」
聖は、視線を落とした。
「映画以来、冷たい態度を取って申し訳なかった。あなたに気を持たせたくないというのもありましたが、自分自身に歯止めをかけていたんです」
「……」
「俳優としてのご活躍を、お祈りしています」
瑞紀は、それ以上何も言えなかった。
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